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「再生 安心社会」

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第5部 明日のために

4.刑罰見直し

−厳罰化一辺倒に疑問−

 懲役二十年か五年か―。昨年八月、福岡市で飲酒運転の乗用車が多目的レジャー車(RV)に追突し、幼児三人が死亡した。十二日、福岡地裁であった初公判では、危険運転致死傷罪などに問われた男性被告(22)の弁護側が「正常な運転が困難だったのは飲酒の影響ではない」と主張。最高刑が懲役二十年の危険運転致死傷罪ではなく、同五年の業務上過失致死傷罪の適用を求めた。

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「万引は窃盗罪です」。ポスターを店内に張って防犯対策を強化した大型書店(広島市南区)

▽法定刑引き上げ

 最近、法改正による厳罰化が加速している。二〇〇五年一月の刑法改正では、単独の罪による有期の法定刑の上限が十五年から二十年に、複数の罪では二十年から三十年に引き上げられた。

 被害者や遺族の感情や厳罰を求める世論を背景に危険運転致死傷罪や集団強姦(ごうかん)罪が成立し、福岡市の死傷事故後は飲酒運転の罰則強化を求める機運が全国で盛り上がった。

 法定刑引き上げの意義について、法務省刑事局は「実態に即し、凶悪犯罪に対して軽すぎるという世論を考慮した」と強調する。危険運転致死傷罪は「殊更に赤信号を無視した」など適用条件のハードルが高い。現場の警察官は「目撃証言や物証などしっかりした裏付けがないと立件できず、適用は簡単でない」と漏らす。

 犯罪白書によると、検察庁が〇五年に危険運転致死傷罪で処理した件数は三百四十四件。交通事故関係の業務上過失致死傷罪の処理件数約八十九万五千件と比較すると、はるかに少ない。

▽「抑止は一時的」

 危険運転致死傷罪に該当しなくても厳罰を求める声は高まり、十二日には自動車運転過失致死傷罪が新設された。刑の上限は業務上過失致死傷罪の懲役五年を二年上回り、懲役七年となった。

 だが、立命館大法科大学院の松宮孝明教授(刑事法)は「法改正による犯罪抑止効果は一時的」とみる。「加害者が厳罰を恐れて、逆にひき逃げが増加している側面もある」と慎重な姿勢だ。

 刑務所などの刑事施設では過剰収容が深刻化している。厳罰化で受刑者がさらに増えて高齢出所すれば、受け皿がなく再犯を誘発するという悪循環にも陥りかねない。

 〇六年五月施行の改正刑法では、これまで十年以下の懲役刑しかなかった窃盗罪に罰金刑が新設された。起訴が猶予されたり、被害店が届け出ないなど実質的に「とがめなし」にとどまるケースが多かった万引に対し「不問に付すのではなく、罰金を科すことで犯罪抑止につなげる」(法務省刑事局)との思いが込められている。

 広島地検によると、〇六年五月から〇七年五月末までに、万引など略式起訴で罰金刑となったケースは百二十四件。最近では、成人の万引が増え常習性も高い。広島市内の書店などは店内にポスターを掲示するなどして対策を強化、「万引は犯罪」という概念をアピールして防犯効果を狙う。

 世論にのみ流された感情的な厳罰化や法改正だけでは治安回復につながらない。「犯罪結果への対策だけでなく、犯罪要因を分析し、二度と過ちを起こさないための福祉の充実や刑事政策が不可欠」。龍谷大の村井敏邦矯正・保護研究センター長はこう指摘する。

 犯罪情勢に見合った立法と政策のために、幅広い視座に基づく十分な審議が求められている。(野田華奈子)

2007.6.17