「五人目の家族」   その5 貧乏神は福の神

 声(こえ)が聞(き)こえたかとおもうと、こたつのそばにだれかがあらわれた。

 みんなが「ワッ」と声をあげると、

「おどろくことはないじゃろう。よんだから、すがたをあらわしたのじゃよ」 イラスト

 さっきの物置(ものおき)のおじいさんがこたつのそばにすわっていて、しずかに答(こた)えた。

「本当(ほんとう)に、本物(ほんもの)の貧乏神(びんぼうがみ)なのか?」

 父(とう)さんがぽかんとした顔(かお)で聞(き)いた。

「さっきから、そう言(い)っておるのじゃが」

 きっちりとすわって、気弱(きよわ)そうにおじいさんは言って、重箱(じゅうばこ)をのぞいた。

「おいしそうじゃなあ」

「よかったらどうぞ」

 母(かあ)さんが、きょとんとした顔でことばを返(かえ)した。

「やっぱりうちには貧乏神がいたってこと?」

 ぼんやりと勇太(ゆうた)が聞くと、おじいさんはうなずいてみせて、母さんに言った。

「お酒(さけ)を一杯(いっぱい)いただこうか」

 母さんはきょとんとした顔のままで立(た)ちあがって、さかずきを持(も)ってきた。父さんがぽかんとしたままで、とっくりの酒をついだ。

「ここに来(く)るまえは、どこにいたんですか」

 母さんがたずねた。顔つきはまだきょとんとしていた。

「となり町(まち)の古(ふる)い家(いえ)に住(す)んでおったのじゃが、そこがこわされて駐車場(ちゅうしゃじょう)になってしもうて、それでしかたなく十五年前(じゅうごねんまえ)からこの家に」

 おじいさんはぼそぼそと答えて、つがれた酒をおいしそうに飲(の)んだ。それから「それでは、はじめよう」と、立ちあがって、

 貧乏神は福(ふく)の神(かみ) 貧乏神は福の神

 調子(ちょうし)をつけて歌(うた)いはじめた。どこからか扇子(せんす)を出(だ)して、おどりもはじめる。

 わらうかどには 福きたる

 (こ)イワシも 七回(ななかい)あらえばタイの味(あじ)

 いつのまにか、父さんも母さんも勇太もゆかりも、手(て)をたたいて拍子(ひょうし)をとっていた。

 貧乏神は福の神 貧乏神は福の神

 黒豆(くろまめ)も 見(み)ようによればキャビアです

 たまごやき カズノコ色(いろ)をしています

 歌っておどりながら、すがたが消(き)えた。

「あの神さま、うちの重箱にタイもキャビアもカズノコもないのに気(き)がついたのね」

 母さんが、くすくすとわらった。

「楽(たの)しかったね」

 勇太とゆかりが、声をそろえて言った。

「おかしな正月(しょうがつ)だ」

 そう言った父さんも、わらっていた。

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