「五人目の家族」   その4 あれれ消えた?貧乏神

 父(とう)さんはへやから出(で)ていったが、

「だれもいないぞー」

 声(こえ)が聞(き)こえた。

 三人(さんにん)はいそいで立(た)ちあがって、物置(ものおき)に走(はし)った。さっきまでおじいさんがすわっていたところには、なにもない。 イラスト

「きっと、にげたんだ」

 父さんが、ほっとしたような声をだした。

「貧乏神(びんぼうがみ)なんかじゃなかったんだ。どろぼうだよ。どろぼうがかくれていて、見(み)つかったのでにげだしたのさ」

「でも、だれも来(こ)なかったよ。それにあの人(ひと)、ぼくたちのこと、よく知(し)っていた」

 勇太(ゆうた)が口(くち)をとがらせると、

「わたし、出(で)かけるときに、ちゃんとかぎをかけたんだけど。げんかんにも、うら口にも」

 母(かあ)さんは首(くび)をかしげた。

「おなか、すいた」

 ゆかりだ。ゆかりが母さんの手(て)を引(ひ)っぱってからだをゆらしている。

「あらら、もうこんな時間(じかん)

 母さんはうで時計(どけい)に目(め)をやって、

「とにかく昼(ひる)ごはんを食(た)べましょう」

と、台所(だいどころ)まで行っておせち料理(りょうり)の重箱(じゅうばこ)を運(はこ)びはじめた。

 勇太は小皿(こざら)を、ゆかりはおはしを運ぶようにと言(い)いつけられた。

 父さんは紙(かみ)パックの日本酒(にほんしゅ)をとっくりにうつしかえて、電子(でんし)レンジに入(い)れている。

 みんなでこたつのテーブルの上(うえ)にごちそうをならべて、昼ごはんになった。

「正月(しょうがつ)そうそう、おかしなことがおきる」

 ゴマメをかみかみ、これは父さん。

「初(はつ)もうでで、家族(かぞく)の安全(あんぜん)とお金(かね)がもうかるようにって、ねがったばかりなのにね」

 黒豆(くろまめ)を小皿(こざら)にとりながら、これは母さん。

「さっきの貧乏神、どこに消(き)えたんだろう」

 勇太も、たまごやきを食べてから言うと、

「だから、貧乏神じゃなかったんだってば」

 父さんがさかずきをかた手(て)に答(こた)えた。

 そのとき、ゆかりが歌(うた)うような声をだした。

「ビンボー神さーん」

 その声がおかしくて、勇太もわらいながらふしをつけて言ってみた。

「ビンボー神さーん、出ておいでー」

「ふぉーい」と、どこかで返事(へんじ)がした。

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