「ビンボウガミ」
父(とう)さんと母(かあ)さんが、そろって声(こえ)をあげた。
「ビンボーおじいさんじゃないの?」
あれっ?という顔(かお)をして、ゆかりが言(い)った。
「うそだろう」
すぐに父さんが、もっと大(おお)きな声をだした。
「本当(ほんとう)じゃ。わしは貧乏神(びんぼうがみ)で、おまえさんたちがひっこしてくるよりもずっと前(まえ)からここに住(す)んでおる」
「前って、いつから?」
おもわず勇太(ゆうた)も聞(き)いた。高(たか)くてふわふわした声しかでなかった。
「そうじゃなあ、もう十五年(じゅうごねん)もたつかなあ。めったに人(ひと)に見(み)つかることはないのじゃが」
そのとき、あっという声がした。母さんだ。母さんは目(め)を大きくひらいて、三人(さんにん)を見た。目のはしで、こっちにおいでと言っている。
家族四人(かぞくよにん)はひとかたまりになって、こたつのあるへやまで歩(ある)いた。
こたつをかこんですわると、すぐに母さんがひそひそばなしをするように言った。
「あの人の言うこと、本当かもしれない」
勇太にはよくわからなかった。アニメや童話(どうわ)のなかではふしぎなことがいっぱいおきるのだが、勇太はまだそんなふしぎに出会(であ)ったことがなかった。父さんは「まさか」と言って、もうわらいだしている。
母さんが小声(こごえ)のままでつづけた。
「おととしの冬(ふゆ)は大雪(おおゆき)がふって、水道管(すいどうかん)がこおりついてはれつした。去年(きょねん)は、台風(たいふう)でやねがこわれた。この家(いえ)、こまったことばかりよ」
でも、となりの家も台風でやねがとんだよと、勇太が言おうとすると、それよりも早(はや)く母さんが口(くち)をひらいた。
「あれもこれも、ここに貧乏神が住んでいるせいだったんじゃないの?」
「貧乏神って、なに?」
ゆかりがぐるりとみんなの顔を見た。
「あの神さまがいると、お金(かね)がたまらないのさ。みんな、貧乏になるんだ」
勇太が教えてやると、
「なるほど。たからくじも当(あ)たらないわけだ」
父さんがうで組(ぐ)みをして、ぼそりとつぶやく。
そのまま父さんはしばらく考(かんが)えていたが、
「ここの家賃(やちん)がずいぶん安(やす)いのは家が古(ふる)いせいだと聞いたんだが、じつはむかしからへんなのが住んでいたってことなのか」とうなるように言って、「本当かどうか、聞いてくる」と、ドシドシと足音(あしおと)をたててへやから出ていった。