物置(ものおき)とげんかんは、まっすぐなろうかのはしとはしにある。
勇太(ゆうた)がいそいでふりむくと、母(かあ)さんが入(はい)ってきたのが見(み)えた。その後(うし)ろには父(とう)さんもいる。
とたんにゆかりがかけだした。
「ビンボーさんが、物置にいる」
げんかんまでかけていって、母さんにとびついて大声(おおごえ)で知(し)らせている。
母さんと父さんは、ええっ?というように顔(かお)を見合(みあ)わせたが、あわててくつをぬいで物置のそばまで走ってきた。
勇太はだまって物置の中(なか)を指(ゆび)さした。足(あし)がすくんで、ゆかりのように走(はし)ることができなかった。
「だれ?」
すぐに母さんが、ふるえる声(こえ)をだした。
「けいさつ、よびますよ」
「なんだ、おまえは」
こんどは父さんが言(い)った。
「いつからここにいる」
ゆかりがさっと父さんの後ろにかくれた。
「わたしたちが初(はつ)もうでに出(で)かけたるすに、入りこんだんだわ」
母さんの声は、まだふるえている。
「ちがう、ちがう」
物置の人(ひと)は、きちんとすわったままで右手(みぎて)をひらひらと横(よこ)にふってみせた。
「もっと前(まえ)から、わしはここにおる」
そのあいだに、父さんは上着(うわぎ)のポケットから携帯電話(けいたいでんわ)を取(と)り出(だ)していた。
「けいさつに電話しよう。どろぼうにちがいない」
「あわてるな。わしはおまえさんたちよりも古(ふる)くから、この家(いえ)に住(す)んでおるのじゃよ」
その人はおちついたようすで言って、
「お父さんは高夫(たかお)さん、お母さんはあや子さん。この家は四人家族(よにんかぞく)。わしを入(い)れると五人(ごにん)になるが」
なんでも知っているように話(はな)す。
「この人、いったいだれなの?」
母さんが勇太の方(ほう)を向(む)いて、早口(はやくち)で聞(き)いた。
勇太は首(くび)を横にふった。おどろいて、声も出なかった。
「さっきも言いかけたのじゃが、わしは貧乏神(びんぼうがみ)。まあ、ここの家族(かぞく)のようなものじゃ」
すました顔でその人が答(こた)えた。