今年(ことし)の初(はつ)もうでは、父(とう)さんと母(かあ)さんだけが出(で)かけた。妹(いもうと)のゆかりがかぜぎみだったので、勇太(ゆうた)はいっしょにるすばんをさせられたのだ。
こたつにすわってクリスマスに買(か)ってもらったゲームをしていると、向(む)かいで絵本(えほん)をながめていたゆかりが立(た)ちあがって言(い)った。
「羽根(はね)つき、しようよ。お天気(てんき)がいいよ」
「お昼(ひる)までは外(そと)に出るなって、言われただろう」
すわったままで注意(ちゅうい)すると、
「いやだ。ゆかり、羽根つきしたいの」
ほっぺたをふくらまして言い返(かえ)してきた。
言いだすと聞(き)かないのはいつものことだ。
しかたなく勇太はゲームのスイッチを切(き)って、言ってやった。
「家(いえ)の中(なか)でなら、いいけど」
ゆかりはうれしそうにうなずいて、すぐにスキップでろうかにでる。
「前(まえ)におばあちゃんからおくってもらった羽子板(はごいた)と羽根が、物置(ものおき)に入(い)れてあるんだ」
スキップのまま、ろうかを進(すす)む。
勇太もあとからついていった。
ろうかのつきあたりの物置の前までいくと、ゆかりはいきおいよくとびらをあけたが、そのままかたまったように動(うご)かなくなった。
「どうしたの?」
勇太がそばまでいって中(なか)をのぞくと、灰色(はいいろ)のセーターを着(き)て同(おな)じ色のズボンをはいた、知(し)らない人(ひと)がすわっていた。かみの毛(け)の白(しろ)い、ほっそりとしたおじいさんだ。
「だれ?」
ぎょっとして声(こえ)をあげたが、声がかすれた。
その人はそれには答(こた)えず、きっちりとすわったままで勇太に聞いた。
「勇太くんと、妹はゆかりちゃんじゃな」
おもわず、こくんと首(くび)をふると、
「勇太くんが四年生(よねんせい)で、ゆかりちゃんは幼稚園(ようちえん)の年長(ねんちょう)さん」
ちょっと笑顔(えがお)になって、その人がつづけた。ささやくような声だった。
ゆかりはまばたきもせずに物置の中を見(み)ていたが、
「このおじいさん、だあれ?」
問(と)いかけるように勇太を見あげた。
「やれやれ、とうとう見つかってしもうた」
その人は小(ちい)さな声のままでこまったように言って、
「わしの名はビンボー……」
そのとき、げんかんのドアのあく音(おと)がした。