「五人目の家族」   その1 わしの名はビンボー…

 今年(ことし)の初(はつ)もうでは、父(とう)さんと母(かあ)さんだけが出(で)かけた。妹(いもうと)のゆかりがかぜぎみだったので、勇太(ゆうた)はいっしょにるすばんをさせられたのだ。

 こたつにすわってクリスマスに買(か)ってもらったゲームをしていると、向(む)かいで絵本(えほん)をながめていたゆかりが立(た)ちあがって言(い)った。 イラスト

「羽根(はね)つき、しようよ。お天気(てんき)がいいよ」

「お昼(ひる)までは外(そと)に出るなって、言われただろう」

 すわったままで注意(ちゅうい)すると、

「いやだ。ゆかり、羽根つきしたいの」

 ほっぺたをふくらまして言い返(かえ)してきた。

 言いだすと聞(き)かないのはいつものことだ。

 しかたなく勇太はゲームのスイッチを切(き)って、言ってやった。

「家(いえ)の中(なか)でなら、いいけど」

 ゆかりはうれしそうにうなずいて、すぐにスキップでろうかにでる。

「前(まえ)におばあちゃんからおくってもらった羽子板(はごいた)と羽根が、物置(ものおき)に入(い)れてあるんだ」

 スキップのまま、ろうかを進(すす)む。

 勇太もあとからついていった。

 ろうかのつきあたりの物置の前までいくと、ゆかりはいきおいよくとびらをあけたが、そのままかたまったように動(うご)かなくなった。

「どうしたの?」

 勇太がそばまでいって中(なか)をのぞくと、灰色(はいいろ)のセーターを着(き)て同(おな)じ色のズボンをはいた、知(し)らない人(ひと)がすわっていた。かみの毛(け)の白(しろ)い、ほっそりとしたおじいさんだ。

「だれ?」

 ぎょっとして声(こえ)をあげたが、声がかすれた。

 その人はそれには答(こた)えず、きっちりとすわったままで勇太に聞いた。

「勇太くんと、妹はゆかりちゃんじゃな」

 おもわず、こくんと首(くび)をふると、

「勇太くんが四年生(よねんせい)で、ゆかりちゃんは幼稚園(ようちえん)の年長(ねんちょう)さん」

 ちょっと笑顔(えがお)になって、その人がつづけた。ささやくような声だった。

 ゆかりはまばたきもせずに物置の中を見(み)ていたが、

「このおじいさん、だあれ?」

 問(と)いかけるように勇太を見あげた。

「やれやれ、とうとう見つかってしもうた」

 その人は小(ちい)さな声のままでこまったように言って、

「わしの名はビンボー……」

 そのとき、げんかんのドアのあく音(おと)がした。

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