ななの家(いえ)の庭(にわ)にはクリスマスの木(き)と呼(よ)ばれる樅(もみ)の木があります。
ななが生(う)まれたときに、おじいちゃんとおばあちゃんが植(う)えた記念樹(きねんじゅ)です。
ななの成長(せいちょう)とともに、クリスマスの木も、ずいぶん大(おお)きくなりました。
「あら、もう十二月(じゅうにがつ)だわ」
土曜日(どようび)の朝(あさ)、おそい朝食(ちょうしょく)の後(あと)で、カレンダーをめくっていたママが、おどろいたような声(こえ)を出(だ)しました。
「ママ、何(なに)を言(い)っているんだ?
十一月(じゅういちがつ)がおわったらつぎは十二月! 百年(ひゃくねん)も前(まえ)からきまっているだろう!」
新聞(しんぶん)に目(め)を通(とお)していたパパは、少(すこ)し心配(しんぱい)げな顔(かお)でママの方(ほう)を見(み)ました。
「だって、おばあちゃんが急(きゅう)にいなくなった日(ひ)が、去年(きょねん)のクリスマスの日だったでしょう。一年(いちねん)があっと言う間(ま)だったわ。まるで夢(ゆめ)の中(なか)のできごとだったような気(き)がする」
ママはガラス戸(ど)を少(すこ)し開(あ)けると、クリスマスの木を見上(みあ)げました。
「今年(ことし)のクリスマス、この木に飾(かざ)りをつけていいのかしら?」
「もちろんさ。おばあちゃんが今(いま)までやっていたことを、今度(こんど)は、ママとななが受(う)けついでいかなければ…」
パパは、ママのそばまで行(い)くと、ママの肩(かた)をそっとだきよせました。
「はじめての孫(まご)が生まれると聞(き)いて、おじいちゃんもおばあちゃんも、大(おお)よろこびだったよ」
「そうそう、クリスマスイブにななが生まれたのですものね」
パパとママは、ななの生まれた日のことを、しんみりと思(おも)い出(だ)していました。
「ママ、ななを産(う)んでくれて、ありがとう」
「まあ、パパったら…」
ママは、てれくさそうにパパの顔を見ました。