「じいちゃんがやる気(き)になったら、いつでもすぐに面作(めんづく)りができるようにしとかんと」
じいちゃんに、あまりやさしくしているとは思(おも)えんかったかあちゃんが、こんなにじいちゃんのことを思っていたのかと翔(しょう)は、ふしぎな気持(きも)ちだった。
「かあちゃんはね、やっぱり、かぐらのときには、じいちゃんの面(めん)でかぐらをやってもらいたいと思うとるんよ」
かあちゃんが、じいちゃんのかげのファンだったなんて翔は知(し)らなかった。
車(くるま)いすの生活(せいかつ)になって、じいちゃんは、生(い)きているけど、まるで死(し)んだ人(ひと)のようになってしまったと翔は思った。
人に会(あ)うのもいやがったし、おもしろい話(はなし)もせんようになった。ごはんも食(た)べないし、あんなに好(す)きだったお酒(さけ)もよろこばなくなった。
やっぱりじいちゃんは、強引(ごういん)でも元気(げんき)なじいちゃんでいてほしいと翔は思った。
翔は、得意(とくい)のサッカーでもミスばかりするようになった。
「翔、どうしたんじゃ?」
担任(たんにん)のゴリ先生(せんせい)もけいくんも翔のことを心配(しんぱい)した。
夏休(なつやす)みがおわって、しばらくしたころ、翔の担任のゴリ先生が昼休(ひるやす)みに翔やけいくん、野田(のだ)っちらとサッカーをしながら
「なあ、今年の祭(まつ)りには、おれたちのクラスで、かぐらをやってみんか?」
と、とつぜん、とんでもないことを言(い)い出(だ)した。
「エッ? かぐらをやるって、祭りまでもう二カ月(にかげつ)もないんじゃあないの、じょうだんはあさってにしてよ」
けいくんが、おどけた顔(かお)をして言った。