じいちゃんが山(やま)へ樹(じゅ)えきをとりに行(い)って、足(あし)をすべらせて大(おお)けがをしたのは、まだ寒(さむ)いころだった。
昼(ひる)ごはんを知(し)らせに行ったかあちゃんが、たおれているじいちゃんを見(み)つけて救急車(きゅうきゅうしゃ)をよんだ。
とうちゃんと翔(しょう)が、あわてて病院(びょういん)にかけつけたとき、じいちゃんは、意識不明(いしきふめい)だった。
「おやじのやつ、もう助(たす)からんかもしれんな」
じいちゃんが手(しゅ)じゅつ室(しつ)から出(で)てくるのをまちながら、とうちゃんは、おちこんだ顔(かお)で、オロオロして言(い)った。
「だいじょうぶじゃ、じいちゃんは、そうかんたんには、あの世(よ)に行ったりはせんよ」
かあちゃんは、おちついていた。
翔も、かあちゃんの言うとおりだと思(おも)った。
三カ月(さんかげつ)も入院(にゅういん)して、元気(げんき)になったじいちゃんは、リハビリのとき、病院の先生(せんせい)に文句(もんく)ばかり言っていた。
「ほら、わたしの言うたとおりでしょうが」
かあちゃんは、言った。
じいちゃんは車(くるま)いすに乗(の)って退院(たいいん)した。
こしを強(つよ)くうって、もう歩(ある)けるようにはならないかもしれませんと病院の先生が、とうちゃんに言ったそうだ。
じいちゃんは、家(いえ)に帰(かえ)ると、一日中(いちにちじゅう)、ベッドの上(うえ)で外(そと)をながめて、ボーッとしてすごした。
入院前に作(つく)りかけていた大蛇(おろち)の頭(かしら)も工(こう)ぼうのたなの上で、目(め)を入(い)れてもらえないまま、ねむりつづけていた。
それでも、かあちゃんは、毎日(まいにち)、じいちゃんの面(めん)つくりの工ぼうをきれいに、そうじしていた。
工ぼうの中は、じいちゃんが仕事(しごと)をしていたころより、ずっときれいになっていた。