山(やま)のおくに、山はだの見(み)える工事現場(こうじげんば)のようなところがあった。
このあたりには屋根(やね)のかわらを作(つく)る工場がたくさんあって、ここは、かわらを作るための粘土(ねんど)をとるところなのだと、じいちゃんが教(おし)えてくれた。
かわら工場の社長(しゃちょう)が、じいちゃんの面作(めんづく)りのためによい粘土がとれるこの場所(ばしょ)を知(し)らせてくれたんだと、じいちゃんは言(い)った。
ビニールのふくろの中(なか)に粘土を入れると、じいちゃんは用意(ようい)していたダンボール箱(ばこ)に大切(たいせつ)そうにしまった。
「土(つち)が、かわかんように、こうやって大切にあつかわんとな」
じいちゃんは、粘土をまるで、かわいがっている赤(あか)んぼうのように手(て)でなでた。
「面作りには、よい土がかかせんのじゃ」
じいちゃんは、そう言った。
粘土を見るときのじいちゃんの顔(かお)は、やさしい顔になっていた。
粘土でお面の型(かた)を作る。
その型をゆっくり、かわかして、石(せっ)こうを流(なが)しこむ。石こうがかわいたら、その石こうの型の中にふたたび粘土をつめていく。
そして、かわかす。
粘土から石こうをはずして、面の型はやっとできあがる。
和紙(わし)をはって、本当(ほんとう)のお面を作っていくのは、それからだ。
「こんなめんどくさいこと、よくやってるよな」と翔(しょう)はいつも思(おも)った。
工(こう)ぼうの中には、カキのしぶや樹(じゅ)えきの入(はい)ったかめがあって、翔は、このにおいもすきではなかった。
それでも、じいちゃんの面が少(すこ)しずつできあがり、色(いろ)がつき、まゆをひくようになると、そっと工ぼうに行(い)って、鬼(おに)の面や鍾馗(しょうき)さんの面をのぞかずには、いられなかった。