田(た)んぼのいねかりもすんで、もうすぐ秋(あき)まつりがやってくる。
きょうも、かぐらのけいこの、ふえやたいこの音(おと)が町中(まちじゅう)にひびいている。
ドンドン ドンチキチッチ
ピーヒョロロ ピーヒョロロ
かぐらのリズムを聞(き)いていると翔(しょう)は体(からだ)が自然(しぜん)に動(うご)き出(だ)した。赤(あか)んぼうのときから聞きなれたリズムだ。
いつの間(ま)にかステップをふみ、体が右(みぎ)に左(ひだり)にゆれてくる。
翔のじいちゃんは、この地方(ちほう)では有名(ゆうめい)なかぐら面作(めんづく)りだった。
近(ちか)くの町(まち)でできる和紙(わし)を使(つか)って、家(いえ)のすぐ横(よこ)にある工(こう)ぼうで、かぐら面作りに、はげんでいた。
ちょっと、ひまができると車(くるま)を運転(うんてん)して、質(しつ)のよい粘土(ねんど)をさがして歩(ある)いた。
翔の休(やす)みのときは、じいちゃんは出(で)かける前(まえ)に翔にかならず声(こえ)をかけた。
「オイ、翔、出かけるぞ!」
「エッ? そんなこと急(きゅう)に言(い)っても、ぼくサッカーのやくそくしてるよ」
「サッカーなんて、いつでもできる。きょうはじいちゃんしか知(し)らんひみつの場所(ばしょ)へつれて行(い)ってやる。早(はや)くしたくをしろ!」
じいちゃんは、いつも強引(ごういん)だった。
「けいくんごめんな。急(きゅ)、急用(きゅうよう)ができた。悪(わる)いな、今度(こんど)は、きっとつきあうから、みんなにも、あやまっといて」
翔は電話口(でんわぐち)で、見(み)えない友(とも)だちにペコペコ頭(あたま)をさげた。
「チェッ、楽(たの)しみにしてたのに。急用じゃあしかたないな。野田(のだ)っちでも、さそうよ」
けいくんは、電話の向(む)こうで大人(おとな)のような口(くち)をきいた。
じいちゃんは、ぼくを助手(じょしゅ)せきに乗(の)せると、のろのろと山道(やまみち)に向かって走(はし)り出した。