風(かぜ)が出(で)てきたようだ。
山(やま)の天気(てんき)はかわりやすいと、いつかコン太(た)先生(せんせい)が教(おし)えてくれたのを一郎(いちろう)は思(おも)い出(だ)していた。
山の木々(きぎ)がザワザワとざわめき出した。
「ああ、あらしが来(く)るかもしれないと、ぶなの木が知(し)らせてくれているよ。まどをしめなくては」
おばあさんは、そう言(い)うと立(た)ち上(あ)がり、小屋(こや)のまどというまどを閉(し)め、ドアをロックした。
「ぼく帰(かえ)るよ。コン太先生においつかなくては、おいてきぼりになっちゃうよ」
一郎は泣(な)き出しそうになっていた。
「だいじょうぶ。コン太は、わたしより早(はや)く木々のざわめきをキャッチして、今(いま)ごろは子(こ)どもたちを全員(ぜんいん)、岩(いわ)あなの中(なか)にひなんさせているよ」
「そうなの?」
「コン太は星山(ほしやま)のすみずみまでよく知っているよ。赤(あか)んぼうのときから星山をたんけんしてたんだから」
おばあさんは誇(ほこ)らしげに言った。
「さあ、ひと雨(あめ)くるわよ」
おばあさんが、そう言ったとき、いきなりいなびかりとともに雷(かみなり)の音(おと)がズズーンと大地(だいち)をゆるがすようにひびいた。
「キャー」
一郎は、思わず、おばあさんにしがみついた。
「おや、こわいのかい?
そんなことでは、この山にはすめないねえ。コン太の子どものころと同(おな)じだ」
おばあさんは、一郎の背中(せなか)をポンポンとたたいて、そう言った。
「エッ?」
一郎は聞(き)きかえした。
大(おお)つぶの雨がはげしく地面(じめん)をたたいた。
「やっぱりふり出したねえ。雨がやむまで、ここでまつよりほかに方法(ほうほう)はない」
おばあさんは、そう言うとおくの方(ほう)へ入(はい)って行(い)き、赤(あか)や空色(そらいろ)やみどり色の粉(こな)をガラスのびんに入れてきた。
「さあさあ、雨がやむまで、ここをうごくことができないんだから、しばらくおやすみ。一郎くんのために、いい夢(ゆめ)を作(つく)ってあげるよ」
おばあさんは、そう言いながら、小(ちい)さな布(ぬの)のふくろに青(あお)い粉をサラサラと入(い)れた。
「一郎くんの夢は何(なに)? この青い粉は、未来(みらい)が見(み)られる粉なのよ」
「エート、ぼくの夢は、どうぶつのお医者(いしゃ)さんになることかなあ。ペットとかだけではなく、山のどうぶつたちにもたよりにされるお医者さんになりたいなあ」