「今(いま)さらいそいだってしょうがないよ。まあここでゆっくりしていたらいいよ」
おばあさんは一郎(いちろう)を夢工場(ゆめこうじょう)と書(か)いた丸太小屋(まるたごや)の中(なか)にあんないした。
「これは、鳥(とり)たちがおとしていった羽根(はね)をあつめて作(つく)ったふとん。とてもかるいんだよ」
「ずいぶん小(ちい)さなふとんだなあ」
「そして、これは、干(ほ)し草(くさ)を入(い)れて作ったふとんだよ。このふとんの中に入(はい)ると広(ひろ)い草原(そうげん)の夢を見(み)るんだよ」
「へえ、ずいぶんめずらしいふとんがあるんだね」
一郎は夢工場の中をきょろきょろと見回(みまわ)した。
「まくらもあるよ。どんぐりを入れたまくら、落(お)ち葉(ば)を入れたまくら、山(やま)のどうぶつたちの注文(ちゅうもん)におうじて、いろんなまくらを作るんだよ」
「エッ? ここはどうぶつたちのふとんやまくらを作っている工場なの?」
「そうさ、知(し)らなかったのかい? コン太(た)のひいおじいさんもおじいさんも、ずっと古(ふる)くから山でくらすどうぶつや鳥たちにいい夢を見てもらおうと思(おも)って、ふとんやまくらを作ってた」
「どうぶつや鳥たちがふとんでねるなんて聞(き)いたことないよ」
一郎は、あきれて、そう答(こた)えた。
「そりゃあ人間(にんげん)さまが知らないだけだよ。熊五郎(くまごろう)だってリス子(こ)だってヘビ太だって、長(なが)い冬(ふゆ)をねむってすごすだろう。そのときは、いい夢を見たいにきまっているさ」
おばあさんは、どんぐりの実(み)を小さなふくろにつめながら言(い)った。
「このまくらは、リス子からの注文だよ。このごろは人間さまが自然(しぜん)のことを考(かんが)えないから、どんぐりの実もどんどんへってるよ」
「どうぶつたちは、はらがへったまま冬眠(とうみん)しなくてはならない。せめて、どんぐりのまくらで、ごちそうの夢を見てもらおうと思って。目(め)ざめたら、まくらの中身(なかみ)のどんぐりを食(た)べてもらうのさ」
「そうだったのか…」
一郎は考えこんでしまった。
「熊五郎が人間にかみついたってニュースがながれているけど、むやみに人里(ひとざと)に出(で)て、人間をおそっているんではないんだよ」
「エッ? どうしてなの?」
「人間さまが、自分たちのつごうだけで、どんどん森(もり)や山を破(は)かいしているから、森や山のどうぶつたちは、食べるものもなくなり、ねむるところさえもなくなって、いい夢も見られないわけだ」