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その2 コン太先生のお母さん
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星山(ほしやま)は一郎(いちろう)たちの川上小学校(かわかみしょうがっこう)から一キロほど西(にし)へ行(い)ったところにそびえる市内(しない)では一番(いちばん)高(たか)い山だ。
もう二百年(にひゃくねん)もむかしに宇宙(うちゅう)から星(ほし)(いん石)がおちてきて、そのかけらが山の中腹(ちゅうふく)にある神社(じんじゃ)にまつってある、だから星山なのだと一郎はじいちゃんから聞(き)いたことがあった。
星山の登山道(とざんどう)に入ると、すすきやはぎ、どんぐりの実(み)も見(み)られた。
「昼間(ひるま)はあつくても山に入(はい)ると秋(あき)をかんじるよな。よく観察(かんさつ)しろよ。動物(どうぶつ)たちの冬(ふゆ)じたくはもうはじまっているぞ」
コン太先生(せんせい)は言(い)った。
山の中腹にある星の神社に手(て)を合(あ)わせて、グラウンドゴルフ場(じょう)のある広場(ひろば)で休(きゅう)けいをとった。
町(まち) のじいちゃんやばあちゃんがグラウンドゴルフを楽(たの)しんでいた。
休けいがおわり、山の七合目(ななごうめ)にさしかかるころ、とつぜん一郎の目の前からクラスメートのすがたが消(き)えた。
「そんな、ばかな!」
一郎は自分(じぶん)の目をうたがった。
細(ほそ)い登山道のわきが少(すこ)しひらけていて、そこに小(ちい)さな丸太小屋(まるたごや)があった。
その小屋の入り口には
「夢工場(ゆめこうじょう)」とかんばんがかけられていた。
「おや? 何(なん)だろう?」
一郎がほんのちょっとだけかんばんに気(き)をとられている間(あいだ)に、三年一組(さんねんいちくみ)の全員(ぜんいん)が一郎の視界(しかい)から消えてしまった。
「おやおや、コン太の学校の生徒(せいと)かい?」
夢工場の中からあらわれたのは、コン太先生にそっくりな顔(かお)をしたおばあさんだった。
「エッ? おばあさんは何でコン太先生のことを知(し)っているの?」
一郎は思(おも)わず、後(あと)ずさりをした。
「おどろくことはないよ。わたしはコン太の母親(ははおや)なんだよ。コン太の家(いえ)が何代(なんだい)もつづいたふとん屋(や)だって聞かなかったのかい?」
おばあさんは細い目をよけいに細くしてわらった。
「一郎くんと言ったかしら?」
「まだ名前など言ってないよ。どうして、ぼくの名前(なまえ)を知っているの? それに、コン太先生だって、もとの名前は山中亀之助(やまなかかめのすけ)というりっぱな名前があるんだよ。コン太先生というのは、ぼくたちがつけたニックネームだよ」
「おや、そうかい。コン太の方がにあっていると思うけど」
おばあさんは、おかしそうに「クククッ」と、またわらった。
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