今年(ことし)の夏(なつ)は、とにかくあつかった。
一郎(いちろう)は、だらだらと夏休(なつやす)みをすごし、もう永遠(えいえん)に秋(あき)も冬(ふゆ)も春(はる)もめぐってこないのではないかと考(かんが)えたりもした。
八月(はちがつ)のおわりごろになって、ほんのちょっとずつだけど、すずしくなってきた。
にわの植木(うえき)の下(した)の方(ほう)で、夜(よる)になると虫(むし)の音(ね)が聞(き)こえてくるようになった。
自然(しぜん)というのは、どこで、どうやってきせつを知(し)るのだろう? 一郎は、それがふしぎでたまらない。
夏休みのおわりごろになって一郎は、あわてて宿題(しゅくだい)をすませた。
「あんなに長(なが)い夏休みなのに、いつもこうなんだから…」
ママのどなり声(ごえ)も、ワンパターンなのだ。
二学期(にがっき)がはじまって、日(ひ)やけしたクラスメートの元気(げんき)な顔(かお)がそろった。
「みんな元気だったよな。きょうから二学期です」
先生(せんせい)の声が遠(とお)くに聞こえた。
となりの席(せき)のまひろは大(おお)あくびをしている。
一郎は、とじてしまいそうな目(め)をひっしであけていた。
三年一組(さんねんいちくみ)の一郎たちの担任(たんにん)のコン太(た)先生は大きな声で言(い)った。
「どうも夏のつかれがぬけないやつがいるようだな。どうだ、星山(ほしやま)へでも秋をさがしに出(で)かけてみるか?」
夏のつかれがぬけないやつがいると言われてドキッとした一郎やまひろ。顔を見(み)たコン太先生はニヤッとわらった。
コン太先生には山中亀之助(やまなかかめのすけ)というりっぱな名前(なまえ)があった。亀之助という名前は、ふとん屋(や)だった山中家(け)のひいおじいちゃんから、代々(だいだい)つづいている名前だそうだ。
山中先生は、このりっぱな名前が古(ふる)くさくて、あまりすきではないと、ぼくたちにうち明(あ)けた。
目が少しつり上がって、あごの細(ほそ)い先生はどことなく、きつねににていると一郎たちは思(おも)った。
「コン太先生がいいよ」
だれかが言った。それがそのまま愛称(あいしょう)になった。
先生もこの名が気(き)に入(い)っている。
「いいか、星山に行くときは七人(しちにん)ずつが一(いち)チームだ。リーダーが先頭(せんとう)、サブが後(うし)ろ、一チームずつ責任(せきにん)をもって行動(こうどう)しろよ。山に入(はい)ると何(なに)があるかわからんからな」
コン太先生は、そう言った。