「ルリがいた夏」   その5 貝がらのお守り

「子犬(こいぬ)のルリは、私(わたし)がさみしくないようにって孫(まご)のルリが置(お)いていってくれたんだけど、やっぱりここの家(いえ)がすきみたいね」

 おばあさんはルリの頭(あたま)をなでながら、はるかに言(い)いました。 イラスト

「はるかちゃん、ルリをここに置いてもらえないかしら? ルリは、はるかちゃんがすっかり気(き)に入(い)ったみたいよ」

「エッ、ほんとうにいいの? おばあちゃん、ありがとう」

 はるかは今朝(けさ)までのさみしさとゆううつさをもうすっかりわすれていました。

「山田(やまだ)さん、ぼくたちがむすこさんの家族(かぞく)だと思(おも)って、ときどきルリに会(あ)いに来(き)てください」

 パパが言いました。

「ありがとう、むすこがアメリカにいっしょに行(い)こうと言ってくれたのだけど、わたしは広島(ひろしま)が好(す)きなの。この家にいい人(ひと)が入(はい)ってくださってうれしいわ」

 おばあさんはホッとしたような表情(ひょうじょう)をしました。

「アッ、ルリが帰(かえ)ってるぞ」

 庭(にわ)の方(ほう)で子(こ)どもたちの声(こえ)がしました。

「おや、ひかるくんとマリちゃん、さっちゃんも、ちょうどよかった。ルリのおせわをしてくれることになったはるかちゃんよ。大阪(おおさか)から引(ひ)っこしてきたばかりなの。九月(くがつ)からは同(おな)じ学校(がっこう)になるから、よろしくね」

 おばあさんはそう言うと、ワンピースのポケットから何(なに)かをとり出(だ)しました。

「ルリちゃんが大切(たいせつ)にしていた貝(かい)がらのお守(まも)りだ」

 ひかるくんが言いました。

「ほら、水着(みずぎ)入れにつけとくといいよ」

 おばあさんは一(ひと)つずつ、みんなに手(て)わたしました。

 はるかの手の中(なか)で、シャリ、シャリ、と貝がらの音(おと)がしました。

「みんなでプールに行こうよ」

 マリちゃんが言いました。

「はるかちゃんも行くよね」

 さっちゃんが聞(き)きました。

「もちろん、行くよ」

 はるかは大(おお)きな声で答(こた)えました。

 ルリが庭のひまわりの花(はな)の下(した)をいそがしそうに走(はし)りまわっていました。

おわり

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