「私の孫(まご)はルリと言(い)う名前(なまえ)なのよ。小学校二年生(しょうがっこうにねんせい)になるわ」 
	
 おばあさんは言いました。 
	
「この家(いえ)はことしの五月(ごがつ)までむすこの家族(かぞく)が住(す)んでいたのよ」 
	
「そうだったんですか…」 
	
	
 ママは、コーヒーを入(い)れながら、あいづちをうちました。 
	
「ルリは一人(ひとり)っ子(こ)だったから、知(し)り合(あ)いの家から子犬(こいぬ)をいただいて、自分(じぶん)と同(おな)じ名前をつけたのよ。おかしな子でしょ?」 
	
 おばあさんは「ハハハッ」とおかしそうにわらいました。 
	
「アラ、わたしの母(はは)も同じですよ。わたしの母は、ルリ子という名前だったんだけど、犬を飼(か)って、その犬にルリと名前をつけたんですよ」 
	
 ママはわらいながら説明(せつめい)しました。 
	
「へえー、世(よ)の中(なか)、ぐうぜんなできごとがあるもんだなあ」 
	
 パパは感心(かんしん)しながら二人(ふたり)の会話(かいわ)に耳(みみ)をかたむけました。 
	
「それで、どうして、この家が貸(か)し出(だ)されたのですか?」 
	
 ママは、まちきれずにたずねました。 
	
「孫のルリは、生(う)まれたときから心(しん)ぞうの病気(びょうき)があったのよ。それを感(かん)じさせないくらい元気(げんき)な女(おんな)の子だったけど」 
	
「まあ、そうだったんですか」 
	
 ママは、おどろいて、そう言いました。 
	
「ルリのパパは医者(いしゃ)なのだけど、わかいころにアメリカへ勉強(べんきょう)に行(い)って、そこでママのクリスティと出会(であ)って愛(あい)し合(あ)って、ルリが生(う)まれたのよ」 
	
「まあ、すてき!」 
	
 ママは、うっとりとした顔(かお)で言いました。
	
「アメリカのお医者さんの友(とも)だちがね、ルリの手術(しゅじゅつ)を引(ひ)き受(う)けてくださることになって、ルリの一家(いっか)は再(ふたた)びアメリカで生活(せいかつ)することになったの。とうぶんはアメリカでくらすことになるでしょうね」 
	
 おばあさんは言いました。 
	
「そういう事情(じじょう)だったんですか」 
	
 パパが、ぽつりと言いました。 
	
「さみしいけど、孫のしあわせのためですもの」 
	
 おばあさんは、しんみりとした口調(くちょう)で言いました。