「ルリがいた夏」   その4 心ぞうの病気

「私の孫(まご)はルリと言(い)う名前(なまえ)なのよ。小学校二年生(しょうがっこうにねんせい)になるわ」

 おばあさんは言いました。

「この家(いえ)はことしの五月(ごがつ)までむすこの家族(かぞく)が住(す)んでいたのよ」

「そうだったんですか…」 イラスト

 ママは、コーヒーを入(い)れながら、あいづちをうちました。

「ルリは一人(ひとり)っ子(こ)だったから、知(し)り合(あ)いの家から子犬(こいぬ)をいただいて、自分(じぶん)と同(おな)じ名前をつけたのよ。おかしな子でしょ?」

 おばあさんは「ハハハッ」とおかしそうにわらいました。

「アラ、わたしの母(はは)も同じですよ。わたしの母は、ルリ子という名前だったんだけど、犬を飼(か)って、その犬にルリと名前をつけたんですよ」

 ママはわらいながら説明(せつめい)しました。

「へえー、世(よ)の中(なか)、ぐうぜんなできごとがあるもんだなあ」

 パパは感心(かんしん)しながら二人(ふたり)の会話(かいわ)に耳(みみ)をかたむけました。

「それで、どうして、この家が貸(か)し出(だ)されたのですか?」

 ママは、まちきれずにたずねました。

「孫のルリは、生(う)まれたときから心(しん)ぞうの病気(びょうき)があったのよ。それを感(かん)じさせないくらい元気(げんき)な女(おんな)の子だったけど」

「まあ、そうだったんですか」

 ママは、おどろいて、そう言いました。

「ルリのパパは医者(いしゃ)なのだけど、わかいころにアメリカへ勉強(べんきょう)に行(い)って、そこでママのクリスティと出会(であ)って愛(あい)し合(あ)って、ルリが生(う)まれたのよ」

「まあ、すてき!」

 ママは、うっとりとした顔(かお)で言いました。

「アメリカのお医者さんの友(とも)だちがね、ルリの手術(しゅじゅつ)を引(ひ)き受(う)けてくださることになって、ルリの一家(いっか)は再(ふたた)びアメリカで生活(せいかつ)することになったの。とうぶんはアメリカでくらすことになるでしょうね」

 おばあさんは言いました。

「そういう事情(じじょう)だったんですか」

 パパが、ぽつりと言いました。

「さみしいけど、孫のしあわせのためですもの」

 おばあさんは、しんみりとした口調(くちょう)で言いました。

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