「ルリがいた夏」   その3 家主のおばあさん

「いやよ、ルリを返(かえ)すなんていや。こんなになついているのに」

 はるかが、こんなに言(い)いはるのは、はじめてのことでした。

「でもな、子犬(こいぬ)のほんとうの飼(か)い主(ぬし)は、きっと心配(しんぱい)しているぞ」

 パパがそう言ったとき、玄関(げんかん)でピンポーンとインターホンが鳴(な)りました。 イラスト

 玄関にだれか来(き)たようです。

「日曜日(にちようび)なのに、だれだろう?」

 そう言うとママはいそいで玄関に行(い)きました。

「どちらさまでしょう?」

 ママは用心深(ようじんぶか)く聞(き)きました。

「お休(やす)みのところ、すみませんねえ。家主(やぬし)の山田(やまだ)ですよ」

 どうやら、おばあさんの声(こえ)のようです。

「あらあら、ごめんなさい」

 ママは、あわててドアをあけました。

「お家(うち)を借(か)りていただくときには不動産屋(ふどうさんや)さんにまかせていたから、お会(あ)いするのは、はじめてですね」

 おばあさんは、目(め)を細(ほそ)めて、ニコニコしながら言いました。

「やっぱり、ルリは、ここに来ていたのね。心配したのよ」

 おばあさんは言いました。

 子犬は、おばあさんの足(あし)に体(からだ)をこすりつけると、早(はや)くだいてというように

「クウーン、クウーン」

 とあまえた声(こえ)を出(だ)しました。

「エッ? これ、山田さんちの子犬なんですか?」

 パパとママが声をそろえて言いました。

「おどろいたわ。ここではゆっくり話(はなし)ができませんから、どうぞお入(はい)りください」

 ママが言いました。

「どうぞ、どうぞ、引(ひ)っこし荷物(にもつ)がまだ片(かた)づいていないけど、コーヒーでものみながらお話ししましょう」

 パパは、きょうしゅくした顔(かお)で、おばあさんをリビングにあんないしました。

「まるでむすこたちがいたときのようだわ」

 おばあさんは、なつかしそうに家(いえ)の中(なか)を見(み)まわしました。

「むすこさん?」

 ママはふしぎそうに聞きました。

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