「いやよ、ルリを返(かえ)すなんていや。こんなになついているのに」
はるかが、こんなに言(い)いはるのは、はじめてのことでした。
「でもな、子犬(こいぬ)のほんとうの飼(か)い主(ぬし)は、きっと心配(しんぱい)しているぞ」
パパがそう言ったとき、玄関(げんかん)でピンポーンとインターホンが鳴(な)りました。
玄関にだれか来(き)たようです。
「日曜日(にちようび)なのに、だれだろう?」
そう言うとママはいそいで玄関に行(い)きました。
「どちらさまでしょう?」
ママは用心深(ようじんぶか)く聞(き)きました。
「お休(やす)みのところ、すみませんねえ。家主(やぬし)の山田(やまだ)ですよ」
どうやら、おばあさんの声(こえ)のようです。
「あらあら、ごめんなさい」
ママは、あわててドアをあけました。
「お家(うち)を借(か)りていただくときには不動産屋(ふどうさんや)さんにまかせていたから、お会(あ)いするのは、はじめてですね」
おばあさんは、目(め)を細(ほそ)めて、ニコニコしながら言いました。
「やっぱり、ルリは、ここに来ていたのね。心配したのよ」
おばあさんは言いました。
子犬は、おばあさんの足(あし)に体(からだ)をこすりつけると、早(はや)くだいてというように
「クウーン、クウーン」
とあまえた声(こえ)を出(だ)しました。
「エッ? これ、山田さんちの子犬なんですか?」
パパとママが声をそろえて言いました。
「おどろいたわ。ここではゆっくり話(はなし)ができませんから、どうぞお入(はい)りください」
ママが言いました。
「どうぞ、どうぞ、引(ひ)っこし荷物(にもつ)がまだ片(かた)づいていないけど、コーヒーでものみながらお話ししましょう」
パパは、きょうしゅくした顔(かお)で、おばあさんをリビングにあんないしました。
「まるでむすこたちがいたときのようだわ」
おばあさんは、なつかしそうに家(いえ)の中(なか)を見(み)まわしました。
「むすこさん?」
ママはふしぎそうに聞きました。