「あら、子犬(こいぬ)かしら? 首(くび)わがついてるわ。どこかの飼(か)い犬ね。かわいいわ」
	
 ママは、すわりこむと、コロコロ太(ふと)ったまっ白(しろ)の子犬の、のどもとをなでました。
	
	
「はるかが幼稚園(ようちえん)のころに島根(しまね)のおばあちゃんちでかっていた子犬、おぼえてる?」
	
「うんおぼえてるよ。ルリっていう名前(なまえ)だったよね」
	
「そうそう、今(いま)は大(おお)きくなってしまったけど、あのころはかわいかったよね。この子犬、ルリが子犬のころとまるで同(おな)じじゃない」
	
 ママは、なつかしそうに言(い)いました。
	
「アッ、この子犬、足(あし)から血(ち)が出(で)ているよ」
	
 はるかは、おどろいたようにさけびました。
	
「ほんと、大(おお)きな犬に、かまれたのかなあ」
	
 ママは、あわてて家(いえ)に入ると消毒薬(しょうどくやく)とほうたいを持(も)ってきました。
	
「じっとしてるのよ。いい子ねえ、これで安心(あんしん)だわ」
	
 ママはホッとした顔(かお)で言いました。
	
「でも、どこの家の子犬なのかしらねえ? こまったわねえ」
	
「ママ、今夜(こんや)だけ、ここで休(やす)ませてあげましょうよ」
	
 はるかはそう言うと、引(ひ)っこし荷物(にもつ)の入(はい)っていただんボールの箱(はこ)を持ってきました。
	
「じゃあ、大きな犬におそわれないように玄関(げんかん)の中(なか)に入(い)れて、バスタオルをしきましょうか。ドッグフードも買(か)ってこなくてはね」
	
 引っこしの片(かた)づけでいらいらしていたママは、すっかりやさしい顔つきになりました。
	
「おまえの名前はなんて言うの? ルリでいいかしら?」
	
 はるかが聞(き)くと、子犬は
	
「クゥーン」
	
 とあまえた声(こえ)を出し、小(ちい)さなしっぽをいそがしそうにふって、はるかの足に、からだをこすりつけました。
	
 夜(よる)、パパが帰(かえ)ってきたときには、はるかと子犬はリビングのソファの上(うえ)で、よりそうようにねむっていました。
	
「どこの子犬だ? まい子なら、もとの飼い主(ぬし)に返(かえ)さなくてはいけないな」
	
 パパは、ママにそう言いました。
	
「ええ、とどけが出ていないか、明日(あす)けいさつへ行(い)ってみるわ」
	
 ママは、そうこたえました。