はるかは二階(にかい)のまどから、ぼんやりと海(うみ)をながめていました。
おだやかな瀬戸内(せとうち)の海が太陽(たいよう)の光(ひかり)をうけて、キラキラ、キラッとかがやいて見(み)えました。
きのうも、その前(まえ)の日(ひ)も、はるかは同(おな)じように海を見つめてときをすごしました。
―あああ、夏休(なつやす)みなのに、プールにさそってくれる友(とも)だちもいない。大阪(おおさか)はよかった―
はるかは、そんなことを考(かんが)えていました。
「はるか! おへやのかたづけは、どうなっているの? そんなことでは、いつまでたっても、整理(せいり)できないんじゃあないの」
ママがヒステリックな声(こえ)をあげました。
はるかのパパは会社(かいしゃ)の転勤(てんきん)で、七月(しちがつ)のはじめに大阪から広島(ひろしま)へ引(ひ)っこしました。
はるかもママも一学期(いちがっき)の終業式(しゅうぎょうしき)をまって、広島へ引っこしてきたばかりです。
高台(たかだい)の団地(だんち)の中(なか)にある二階だての家(いえ)のまどからは、海が見えました。
「おうちの庭(にわ)でガーデニングができるなんて最高(さいこう)ね。今(いま)までマンション住(ず)まいだったから、ベランダでの花(はな)づくりって気(き)をつかったもの」
ママはひとりで、はしゃいでいました。
「おとなって、なかよしの友だちと別(わか)れるのってさみしくないのかなあ」
はるかは、小(ちい)さな声でつぶやきました。
一学期の終業式の日、担任(たんにん)のみどり先生(せんせい)がクラスのみんなに言(い)いました。
「はるかさんは、おとうさんの仕事(しごと)のつごうで広島に引っこすことになりました。クラスのみんなでお別れのことばを書(か)きましょう」
「ヘエー」と言いながらクラスの友だちが書いてくれた二枚(まい)の色紙(しきし)をうけとったとき、はるかは泣(な)いてしまいました。
なみだのあとのしみついた色紙は、まだつくえの引き出しに、しまったままです。
―のどかちゃん、ふうかちゃん、わたるくん、どうしているのかなあ―
はるかがなかよしだった友だちを思(おも)い出(だ)しているとき、坂道(さかみち)を走(はし)ってくる小(ちい)さなかげが見えました。
「アッ、なんだろう?」
はるかは階段(かいだん)をかけおりながらさけびました。
「ママー、なにかが家の方(ほう)に上(あ)がってきているよー」