体育(たいいく)の時間(じかん)、よしろうは水着(みずぎ)に着(き)がえて、みんなとプールへ行(い)きました。
プールをまえにして、よしろうはあの海辺(うみべ)の砂(すな)のお城(しろ)をおもいうかべました。よしろうはそっとプールに入(はい)りました。胸(むね)がどきどきして、からだがぶるっとふるえましたが、でも上(あ)がらずに、じっとプールのはしっこに立(た)っていました。
「よしろうくん、すごいなあ」と、先生(せんせい)がほめてくれました。
みんなが泳(およ)いでいるのを見(み)ていると、いつか、泳げるようになるかもしれないという気(き)もちがわいてきました。七月(しちがつ)の日(ひ)ざしをうけて、よしろうはしあわせな気もちでした。
水泳の時間がおわって、教室(きょうしつ)にかえるとちゅう、となりのクラスをのぞいてみました。
「こうじくん、いる?」と、たずねました。よしろうは、プールに入れたことをこうじくんに伝(つた)えたかったのです。
「こうじくんなら、きのう転校(てんこう)していっちゃったよ」と、いちばん前(まえ)の席(せき)の子(こ)がいいました。「お父(とう)さんの仕事(しごと)のつごうで、きゅうにまた転校することになったんだって。あの子、ひと月(つき)だけ、おばあさんの家(いえ)にいたんだよ」
よしろうはおどろきました。こうじくんとせっかくなかよくなれたのに、こうじくんはさよならもいわずに、いってしまったのです。
その夜(よる)、よしろうは夢(ゆめ)を見ました。
白(しろ)い砂浜(すなはま)によしろうは立っていました。波(なみ)がざぶんとよせています。波のあいだにこうじくんの顔(かお)が見えています。「おいでよぉ」と、こうじくんがよしろうを呼(よ)びました。
「よおし」と、よしろうは海に入っていきました。そしてすっと体(からだ)を波にまかせました。手(て)と足(あし)をうごかすと、体(からだ)はすうい、すういと前(まえ)にすすみました。こうじくんのところまでもうすぐです。なんて気もちがいいんだろう、とよしろうはおもいました。その海は、たんすの中(なか)の海そっくりの海でした。
(おわり)