海(うみ)べの砂浜(すなはま)のお城(しろ)は完成(かんせい)にちかづいていました。りっぱな城です。たんすの中(なか)のふたりは砂だらけになって、でもまんぞくそうにそばにすわってお城をながめています。
それを見(み)ていたよしろうは海の変化(へんか)に気づきました。海がさっきよりもせりあがってきているのです。しおがみちてきているのです。
水(みず)はお城のすぐそばまできていました。
波(なみ)がざぶんとよせています。波はできたばかりのお城を少(すこ)しくずしました。たんすの中のよしろうは、あわてて両手(りょうて)をひろげ、お城を守(まも)るしぐさをしました。
また、ざぶんと波がよせました。よしろうはお城のそばからうごきません。
また波がざぶんとよせました。波はお城をまた少しくずし、それからよしろうの足をぬらしました。よしろうはうごきません。
波は何度(なんど)も何度もよせては、少しずつお城をくずしていきました。そばで、よしろうはそれをじっとみつめていました。
やがて、波はついにお城をのみつくしてしまいました。そして、そのときにはよしろうは海水(かいすい)の中にすわっていました。
よしろうは立(た)ちあがると一歩(いっぽ)二歩(にほ)と沖(おき)にむかって歩(ある)きました。もものふかさまでくると、しずかに海の中にからだをしずめました。
夕方(ゆうがた)になるまで、たんすの中のよしろうは海の中にいました。泳(およ)ぐことはできませんでしたが、顔(かお)を水につけたり、波にゆられて遊(あそ)んでいました。
たんすの中の海がだいだい色(いろ)にかがやきはじめました。夕日(ゆうひ)がさしているのです。海からふたりは砂浜へとあがってきました。よしろうはしきりにこうじくんに話(はな)しかけ、わらっています。話しながらふたりはならんで、砂浜のむこうのほうへと歩いていきました。
だれもいなくなった海べに、しずかに波がよせていました。
こうじくんは、そっとたんすをしめました。
「ありがとう」と、よしろうはいいました。