「ちいさなちいさな海」   その8 りっぱな砂のお城

 海(うみ)べの砂浜(すなはま)のお城(しろ)完成(かんせい)にちかづいていました。りっぱな城です。たんすの中(なか)のふたりは砂だらけになって、でもまんぞくそうにそばにすわってお城をながめています。

 それを見(み)ていたよしろうは海の変化(へんか)に気づきました。海がさっきよりもせりあがってきているのです。しおがみちてきているのです。 イラスト

 水(みず)はお城のすぐそばまできていました。

 波(なみ)がざぶんとよせています。波はできたばかりのお城を少(すこ)しくずしました。たんすの中のよしろうは、あわてて両手(りょうて)をひろげ、お城を守(まも)るしぐさをしました。

 また、ざぶんと波がよせました。よしろうはお城のそばからうごきません。

 また波がざぶんとよせました。波はお城をまた少しくずし、それからよしろうの足をぬらしました。よしろうはうごきません。

 波は何度(なんど)も何度もよせては、少しずつお城をくずしていきました。そばで、よしろうはそれをじっとみつめていました。

 やがて、波はついにお城をのみつくしてしまいました。そして、そのときにはよしろうは海水(かいすい)の中にすわっていました。

 よしろうは立(た)ちあがると一歩(いっぽ)二歩(にほ)と沖(おき)にむかって歩(ある)きました。もものふかさまでくると、しずかに海の中にからだをしずめました。

 夕方(ゆうがた)になるまで、たんすの中のよしろうは海の中にいました。泳(およ)ぐことはできませんでしたが、顔(かお)を水につけたり、波にゆられて遊(あそ)んでいました。

 たんすの中の海がだいだい色(いろ)にかがやきはじめました。夕日(ゆうひ)がさしているのです。海からふたりは砂浜へとあがってきました。よしろうはしきりにこうじくんに話(はな)しかけ、わらっています。話しながらふたりはならんで、砂浜のむこうのほうへと歩いていきました。

 だれもいなくなった海べに、しずかに波がよせていました。

 こうじくんは、そっとたんすをしめました。

「ありがとう」と、よしろうはいいました。

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