「ちいさなちいさな海」   その7 ぼくがやってきた

 たんすの海(うみ)は明(あか)るい太陽(たいよう)の日(ひ)ざしをうけて、きらきらとかがやいています。波(なみ)は白(しろ)いあわをたてながら、つぎからつぎへと浜(はま)へよせてきています。かすかにしおの香(かお)りもします。

 と、むこうのほうから小(ちい)さな人(ひと)がやってくるのが見(み)えました。ふたりの子(こ)どもです。水着(みずぎ)をつけています。砂浜(すなはま)をなかよくならんで歩(ある)いてきます。 イラスト

 しだいに近(ちか)づいてくる小さなふたりを見ていると、ひょろりとやせた子は、こうじくんにそっくりだということがわかりました。よしろうはじっと目をこらしました。いよいよ近づいてきたのを見ると、もうひとりの子は、まぎれもなく、よしろう自身(じしん)でした。

 ぼくが、水着をはいている。まさか、海に入(はい)るつもりじゃないだろうな。

 よしろうはじっと、たんすの中(なか)のよしろうを見つめました。

 こうじくんはさっさと海の中に入っていきます。海の水(みず)で顔(かお)を洗(あら)い、ざぶんと水の中にからだをなげだしました。

 それをよしろうは砂浜で見ています。

 海の中から、こうじくんが手(て)まねきをしました。

 よしろうははげしく首(くび)をふっています。海に入るのがこわいのです。

 海の中からこうじくんがあがってきました。そして波うちぎわにしゃがみこむと、砂をほりはじめました。こうじくんはよしろうに、なにかいっています。

 よしろうもそばにしゃがんで砂をほりはじめました。そしてほった砂をつみあげています。なにかをこしらえようとしているようです。手のひらで砂をすくってはつみあげ、手でたたいてかためています。 「わかった。お城(しろ)をつくってるんだ。ぼくも海に行(い)ったら、かならずお城をつくるよ」

 こうじくんは小さな声(こえ)でささやきました。

 たんすの中の海にはさんさんと日があたり、白い小さなカモメがつういとよこぎりました。

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