たんすの海(うみ)は明(あか)るい太陽(たいよう)の日(ひ)ざしをうけて、きらきらとかがやいています。波(なみ)は白(しろ)いあわをたてながら、つぎからつぎへと浜(はま)へよせてきています。かすかにしおの香(かお)りもします。
と、むこうのほうから小(ちい)さな人(ひと)がやってくるのが見(み)えました。ふたりの子(こ)どもです。水着(みずぎ)をつけています。砂浜(すなはま)をなかよくならんで歩(ある)いてきます。
しだいに近(ちか)づいてくる小さなふたりを見ていると、ひょろりとやせた子は、こうじくんにそっくりだということがわかりました。よしろうはじっと目をこらしました。いよいよ近づいてきたのを見ると、もうひとりの子は、まぎれもなく、よしろう自身(じしん)でした。
ぼくが、水着をはいている。まさか、海に入(はい)るつもりじゃないだろうな。
よしろうはじっと、たんすの中(なか)のよしろうを見つめました。
こうじくんはさっさと海の中に入っていきます。海の水(みず)で顔(かお)を洗(あら)い、ざぶんと水の中にからだをなげだしました。
それをよしろうは砂浜で見ています。
海の中から、こうじくんが手(て)まねきをしました。
よしろうははげしく首(くび)をふっています。海に入るのがこわいのです。
海の中からこうじくんがあがってきました。そして波うちぎわにしゃがみこむと、砂をほりはじめました。こうじくんはよしろうに、なにかいっています。
よしろうもそばにしゃがんで砂をほりはじめました。そしてほった砂をつみあげています。なにかをこしらえようとしているようです。手のひらで砂をすくってはつみあげ、手でたたいてかためています。
「わかった。お城(しろ)をつくってるんだ。ぼくも海に行(い)ったら、かならずお城をつくるよ」
こうじくんは小さな声(こえ)でささやきました。
たんすの中の海にはさんさんと日があたり、白い小さなカモメがつういとよこぎりました。