「ねえ、よしろうくんはどうしていつも保健室(ほけんしつ)にいるの?」と、いちょうの木(き)の下(した)で、こうじくんはたずねました。
よしろうは、水泳(すいえい)がにがてなことをはなしました。水泳がある日(ひ)はきまっておなかが痛(いた)くなることもはなしました。
「ね、うちにこない? いいことがあるよ。はしるのと、なわとびとをおしえてくれたお返(かえ)しだよ」と、こうじくんはいいました。
「これから?」
「そう」こうじくんはうなずきました。
こうじくんの家(いえ)は古(ふる)い大(おお)きい家でした。
「こっちだよ」
こうじくんにつれられて庭(にわ)木のあいだをとおって玄関(げんかん)に入(はい)りました。家の中(なか)は、しんとしずまりかえっています。
こうじくんはよしろうを二階(にかい)につれていきました。長(なが)いろうかがあって、その先(さき)にまた小(ちい)さな階段(かいだん)がありました。
こうじくんはその階段をのぼっていきます。よしろうも、そのあとにつづきました。
そこは天井(てんじょう)のひくい、物置(ものおき)のようなへやでした。うす暗(ぐら)いへやの中には、いくつもの木の箱(はこ)や、たんすや古いテレビやせんぷう機(き)、そうじ機なんかがおいてあります。
こうじくんはそのいろいろなものの間(あいだ)をとおって、黒(くろ)いたんすの前(まえ)まで行(い)きました。
「いい? 大きい声(こえ)をだしちゃだめだよ」
こうじくんはまじめな顔(かお)でそういいました。
それからこうじくんは、ゆっくりとそのどっしりとしたたんすをあけました。
引(ひ)き出(だ)された引き出しのなかには、おどろいたことに海(うみ)がありました。さいしょは模型(もけい)かなとおもったよしろうも、波(なみ)が白(しろ)い砂浜(すなはま)によせてきているのを見(み)て、おどろきました。ほんものの小さな海です。おもわずたんすの中の海に手(て)を入(い)れそうになったのを、こうじくんがあわてて止(と)めました。
「だめだよ。さわることはできないんだ。見てるだけ」と、こうじくんはいいました。