「竹馬のあの子」   その3 両手いっぱい なの花

 女(おんな)の子(こ)は自転車(じてんしゃ)をたのしそうにすいすいこいで、ずいぶん先(さき)までいって、そこでふりかえってたかしをよびました。

「はやく、おいでよう」 イラスト

 たかしが女の子に追(お)いつくと、女の子はこんどはゆっくりたかしの歩調(ほちょう)にあわせて、自転車をこぎはじめました。おばあちゃんの家(いえ)をとおりすぎてしばらくいくと、小(ちい)さな畑(はたけ)にぶつかりました。畑には黄色(きいろ)いなの花(はな)がいっぱい咲(さ)いています。

「ね、わたし、ここに来(き)たかったの」と女の子はいいました。そして自転車をとめると、畑の中(なか)に入(はい)っていきました。

 たかしも女の子のあとから、畑に入っていきました。畑いちめんなの花です。

 ふたりは両手(りょうて)いっぱいなの花をつみました。

「ああ、うれし」と、女の子はほんとうにうれしそうにいいました。それから、手(て)さげに花を入(い)れると、「さ、あたし、いかなくちゃ」といって、竹馬(たけうま)にのりました。

 たかしも、おばあちゃんにパンをとどける用事(ようじ)をおもいだしました。

 女の子は竹馬ですっすっと歩(ある)いて、おばあちゃんの家のまえでくると「さようなら」とたかしにいいました。

 おばあちゃんはベッドのなかで、ぐあい悪(わる)そうにじっと目(め)をとじていました。

「おばあちゃん」と、たかしは声(こえ)をかけました。そして「ほら」と、パンとなの花をさし出(だ)すと、おばあちゃんは目をひらき、それから「あら、まあ」と声をあげました。「おいしそうなパン。それに、わたし、なの花がだいすきなのよ」

 たかしは、花(か)びんに水(みず)を入れて、なの花をいけてあげました。おばあちゃんはベッドの中で、うれしそうになの花をながめています。

「なんだか、おまえがくるまえ、あたし、なの花をつむ夢(ゆめ)を見(み)ていた気(き)がするの」

 そうおばあちゃんはいうと、なにをおもいだしたのか、にっこりとわらいました。

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