「でておいでよ」と、おねえちゃんはいいました。
「いやだ」と、まりはこたえます。おねえちゃんの足(あし)をじっと見(み)ています。おねえちゃんはテーブルのまわりをぐるぐるうごきまわっています。
「わたしのを半分(はんぶん)あげようか」
おねえちゃんの顔(かお)がのぞきました。
「いらないってば」
まりは両手(りょうて)で顔をかくしました。
「じゃ、いただきまあす」
おねえちゃんはいすにこしをおろすと、ホットケーキを食(た)べはじめました。フォークとナイフを使(つか)って食べているのです。かちゃかちゃと音(おと)がしています。
きっとバターをぬって、ハチミツをぬって食べているんだ、とまりはおもいました。くやしい気持(きも)ちがむくむくとわいてきました。「あたしのおうちにカギをかけるんだからね」と、まりはテーブルの下(した)からいいました。
「ぜったい、のぞいたりしないでね」
そして、「がちゃがちゃ、がちゃり」と口(くち)でいいながら、テーブルの四本(よんほん)のあしのところにカギをかけるまねをしました。
「わかりましたよう。もうのぞいたりしませんよう」と、おねえちゃんはいいながら、いすにすわった足をぶらぶらさせました。
まりは、テーブルの家(いえ)にとじこもって、じっとおねえちゃんの足を見ていました。
おねえちゃんがいすから立(た)ちあがりました。かちゃかちゃ音がします。ホットケーキを食べたお皿(さら)を流(なが)しにはこんでいるのです。れいぞうこのドアがばたんとしまる音がしました。バターをかたづけたのでしょう。
まりはおねえちゃんの足を目(め)でおいました。
おねえちゃんの足がテーブルのそばをはなれました。台所(だいどころ)のドアをあけ、台所を出(で)ていきます。ドアはばたんととざされました。
それっきり、もうもの音はしなくなりました。家はしんとしずまりかえっています。