「ホットケーキの日」   その3 いただきまあす

 「でておいでよ」と、おねえちゃんはいいました。

 「いやだ」と、まりはこたえます。おねえちゃんの足(あし)をじっと見(み)ています。おねえちゃんはテーブルのまわりをぐるぐるうごきまわっています。 イラスト

 「わたしのを半分(はんぶん)あげようか」

 おねえちゃんの顔(かお)がのぞきました。

 「いらないってば」

 まりは両手(りょうて)で顔をかくしました。

 「じゃ、いただきまあす」

 おねえちゃんはいすにこしをおろすと、ホットケーキを食(た)べはじめました。フォークとナイフを使(つか)って食べているのです。かちゃかちゃと音(おと)がしています。

 きっとバターをぬって、ハチミツをぬって食べているんだ、とまりはおもいました。くやしい気持(きも)ちがむくむくとわいてきました。「あたしのおうちにカギをかけるんだからね」と、まりはテーブルの下(した)からいいました。

 「ぜったい、のぞいたりしないでね」

 そして、「がちゃがちゃ、がちゃり」と口(くち)でいいながら、テーブルの四本(よんほん)のあしのところにカギをかけるまねをしました。

 「わかりましたよう。もうのぞいたりしませんよう」と、おねえちゃんはいいながら、いすにすわった足をぶらぶらさせました。

 まりは、テーブルの家(いえ)にとじこもって、じっとおねえちゃんの足を見ていました。

 おねえちゃんがいすから立(た)ちあがりました。かちゃかちゃ音がします。ホットケーキを食べたお皿(さら)を流(なが)しにはこんでいるのです。れいぞうこのドアがばたんとしまる音がしました。バターをかたづけたのでしょう。

 まりはおねえちゃんの足を目(め)でおいました。

 おねえちゃんの足がテーブルのそばをはなれました。台所(だいどころ)のドアをあけ、台所を出(で)ていきます。ドアはばたんととざされました。

 それっきり、もうもの音はしなくなりました。家はしんとしずまりかえっています。

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