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その5 弓で射落としておくれよ
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おじいさんとサルとネズミとカニと二(に)わのカモが川岸(かわぎし)にならんで空(そら)を見上(みあ)げていると、
「こんなところで、いったいなにを見(み)ておるのじゃ?」
とつぜんうしろから声(こえ)が聞(き)こえました。
みんながそろってふりむくと、馬(うま)に乗(の)ったおさむらいがいました。
「これは、これは、しつれいいたしました。あれに見えるおむすびをどうしたものかと考(かんが) えておりましたので、おさむらい様(さま)に気(き)がつきませんでした」
おじいさんが、ていねいに説明(せつめい)しました。
「飛(と)んでおるのは、あれは、むすびか?」
ふしぎそうに、おさむらいがたずねました。
「そうさ、大(おお)きなかたーいおむすびさ」
サルが空(そら)を指(ゆび)さして言(い)いました。
「あれが落(お)ちてこないことには、われらは昼(ひる)めしにもありつけん」
カニがぶつぶつとつぶやきました。
「どうして、むすびが空を飛ぶ?」
おさむらいは、もう一度(いちど)たずねました。
「わけはこうさ」
ネズミが話(はな)しはじめましたが、おさむらいの持(も)っている弓矢(ゆみや)をみつけて、
「その弓矢で、あれを射落(いお)としておくれよ」
思(おも)いついたようにたのみました。
「いいかも、いいかも」
カモがつばさをはばたかせました。
「これはむすびを射(い)る道具(どうぐ)ではない」
おさむらいは、こわい顔(かお)をしてことわりました。
すると、サルがちょうしにのって、
「自信(じしん)、ないのかい。それじゃあ、おいらがかわりにやってもいいよ」
口(くち)をはさむと、おさむらいはだまってしばらく空のようすを見ていましたが、風(かぜ)が少(すこ)し弱(よわ)まった時(とき)に、矢(や)を一本(いっぽん)とって弓(ゆみ)のつるにあてて、おもいきり引(ひ)きしぼりました。
おさむらいが矢をひょうとはなつと、矢は一直線(いっちょくせん)におむすびのところまで飛(と)んでいって、おむすびの下(した)から一寸(いっすん)ほど(約(やく)三(さん)センチメートル)のところにガツ〜ンと当(あ)たって、おむすびといっしょに落ちてきました。
おじいさんとサルとネズミは手(て)をたたき、カニははさみをうち鳴(な)らし、カモはつばさを広(ひろ)げておどりまわって、みんなでおさむらいのうでまえのみごとさをほめたたえました。
おさむらいもまんぞくそうな顔つきで、馬に乗って去(さ)っていきました。
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