その5 滝つぼのゴキ
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ぼくとおじいちゃんは岩見山へ登っている。おじいちゃんは岩見山のことを、わしの宝じゃというのだ。
滝つぼのあさせで泳いでいる二匹の魚は、頭の先から尾びれのつけねまで金色のはん点がちりばめられた魚だ。体の横には灰色の丸いだ円もようが並んでいる。
ぼくたちが、三メートルもはなれていない川原にいるのに、にげるけはいはまったくない。
おじいちゃんが小声でいった。「あれはゴギという、中国山地のいちばん上流にすむ魚じゃ。落葉する大木がいっぱいある、水のつめたい山の川におる魚よう。卵をうみにあがってきたのじゃ」
ぼくはだまって、じっと二匹の大きな魚を見つめつづける。
すると体の小さい方が、ヒラッと体をま横にして、尾びれで川底をつづけざまにたたいた。小石や砂が流れこんで、川底にくぼみができている。だいぶ前から、くぼみを掘りつづけていたのだろう。小石をたたく尾びれの先や体が、白くふやけてきずついている。
「卵をうむ、くぼみを掘るのがメスで、大きい方がオスだよ」
オスのゴギは、くぼみを掘るメスを守るように、メスの上や横や後ろを泳いでいる。
しばらくすると、メスが体をくぼみの底につける動作をくりかえしはじめた。くぼみの深さをたしかめているみたいだ。
オスは体をふるわせながら、メスの体をおしている。早く卵をうめとでもいうように。
と、次のしゅんかん、二匹は同時にぱっくりと口をあけて目を見はり、くぼみの中に体をしずめた。白い煙のようなものが、くぼみいっぱいに広がった。
「ゴギが卵をうんだぞ」
やがてメスは、少し上てにうつって、また川底をたたきはじめ、くぼみの上に小石のふとんをすっぽりかけた。
「雪がふるころには、滝つぼでゴギの赤ちゃんが泳ぎだすぞ」
「ぼく、見にくるからね」
岩見山はぼくにとっても宝ものになった。
おわり
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