その5 小さい秋
もうすぐ夏休みも終わる。きょうも、マヤと目の不自由なかな子はさんぽに出かけることにした。ふたり並んで歩くコツは、だいぶじょうずになった。
「さくらだんちの北のほうの、太田川から分かれているみささ川へ行ってみよう。かた道四十分ぐらいだけど」
マヤがいうと、
「はーい、わかりました。マヤちゃんの案内もうまくなったね。さいしょに、方向と場所と時間なんか、ちゃんといってくれるもの」
かな子が感心したようにいった。
マヤは、だんちのはずれの高台の階段の上にかな子をつれて行った。眼下には、パノラマふうに広がったおかや森や家々が見わたせる。かな子は両手を広げて、胸いっぱいに空気をすいこみながらいった。
「なんだか、小さい秋、見つけた≠フ感じ」
「えっ、どんなふうに」
「日の光は、ま夏のじりじりするような音がしないし、風はさっぱりしたペパーミントのかおり」
「すごーい、かなちゃん。目が見えなくても音やにおいで、いろんなふうに感じるんだね」
かな子は百だんちかい下り石段の手すりを持って、先に立っておりていく。あとからついていくマヤは、ふっと目をつむってみた。日ざしはとざされ、あたりはまっ暗やみだ。何も見えない。
(う、うごけない)
からだがかなしばりにあったようにかたくなって、足はがくがくして一歩も前に進まない。
「マヤちゃん、どうかしたの」
けはいを感じて、かな子がふりかえった。
「う、うん。かなちゃんがどんどん歩けるのは、勇気があるんだなあって、つくづく感心してるの」
「もともとあったわけじゃないんよ。勇気はつくっていくものなんだよ」
みささ川の土手につくと、さざなみが小さい秋の音をたてて流れ、ふたりをむかえてくれた。
おわり
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