その2 おたふく堂
すっかりさびれたどんぐり横丁に、あたらしいお店ができたときいて、ぼくは友だちのコウヤとマサルと三人で、でかけてみた。
夜店いらいだった。どんぐり横丁は、ネオンもないし、ぼくたちいがいにはお客さんらしい人はいなかった。
「ばあちゃんがさ、おたふく堂でまんじゅう買ってこいって言うから、買いにきたんだ。そしたらおたふく堂のよこに、見たことのない店があったわけ。それではいってみたんだ。そのときおつりが二百三十円あったんだけど、それでけっこう、おもしろいものが買えたんだ」
コウヤのいつもいじょうの早口が、そのお店のおもしろさをものがたっている。なんだかぼくはワクワクしてきて、おたふく堂の前まで、はしった。
「いらっしゃい」
おたふく堂のおばあちゃんが、とおりすぎようとするぼくたちに声をかけた。
まるでおきものみたいなおばあちゃんは、おまんじゅうがはいったガラスケースの向こうがわの、ざぶとんの上にじいっとすわっている。
「ちがうんだ。まんじゅう買いにきたんじゃあないんだ」
コウヤがあわてて答えた。おばあちゃんは、コクンとうなずく。うなずいた顔がニンマリとふくらんで、おまんじゅうみたいな顔でわらった。
「何年もまんじゅう売ってると、顔がまんじゅうそっくりになるのかなあ」
マサルが小声で言った。
うーん。そうかも。
そういえば、おたふく堂の横の乾物屋のおじいちゃんの顔は、こんぶみたいにほそ長かったし、らっきょう屋のおじちゃんは、頭がらっきょうみたいに光っていた。花屋のおばちゃんは、花みたいにちょっときれいだ。
今度、ゆっくりかんさつしてみよう。ぼくはおたふく堂のおばあちゃんをふりかえりながら、そんなことを思った。
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