風よおいで
5 風よおいで
こがらし一号がいなくなってから、リサの家の庭には、いっせいに、春がやってきました。
バラやチューリップもさきました。ビオラやスイートピーもつぎつぎと、花をひらきはじめました。
「どうしたことかしら」
おかあさんとおとうさんもふしぎがります。
リサは、小学校へ入学しました。となりのマサトシくんも、おなじクラスです。マサトシくんには、こがらし一号のことをはなしました。
「そんなことぜったいないよ」
はじめはしんじなかったマサトシくんは、
「そういえば、ぼくの家の庭に花がさいても、リサちゃんとこは、さかなかったよね」
そのマサトシくんが、こんどはおとうさんのしごとのつごうでとおくの町へひっこしてしまいました。
こがらし一号がいなくなったうえに、マサトシくんまでいなくなってしまったのです。
リサは、マサトシくんが、よく、サッカーのれんしゅうをしていた、かわらに行ってみました。すこしまえまでは、菜の花が、いちめんに、さいていたところです。春のひざしがリサをつつんでくれます。川土手の、白いワタゲをつけたタンポポが風にゆれました。
リサは、おもわず、
「風よおいでよー。こっちに、おいでよ」
と、春風にむかって、さけびました。
春風が、やさしく、リサのホッペをなでました。
「春風さん、おねがいがあるの。この、タンポポのワタゲをマサトシくんのところへとどけてくれない」
春風が、へんじをするようにリサのかみの毛をなびかせました。
リサが、タンポポのワタゲにいきをふきかけると、白いワタゲは、春風にのって、たかく、たかく、まいあがっていきました。
おわり
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