第一話 トマト畑の神さま
学校から帰るといっても、よっこたちの場合は、山すその川ぞい、つまり谷間の道を、強い日ざしに焼かれながら、四キロも歩いて帰るのだから大変だ。
「はるちゃん、泳いで行こ」
「うん」
二人はいつものどんどん(淵)で、パンツのまま泳いだ。
「ひょーおっ、つめたーい!」
「ふおーっ、気持ちいいっ!」
ところが、道に上がって歩きだすと、前以上にぐったりし、のど
もからからになっている。へんだなあ。まいったな。
だから、真っ赤なトマトがすずなりになっている畑のそばにきた
とき、二人は、思わず顔を見あわせ、のどをごくんとならした。
「神さま、お願い。このトマト、はるちゃんと私に、一個ずつ、どうかお恵みくださいまし。」
よっこは、真剣に目をつむり、両手を合わせて祈った。すると、驚いたことに、畑のうねの間に、白いあごひげをたくわえた着物姿の老人が、長いつえをついてすっと立ち、
「よしよし。おまえたちの願いを聞いてつかわそう。一個といわず、十万個でも、百万個でも、すきなだけ食べるがよい」
と、おごそかに言うのだった。見たことのない人だ。
「ただし、一個につき必ず二口半で食べねばならんぞ」
「えっ? 二口半で!?」
はるちゃんは、小さめのをもいだが、よっこは、とびきり大きくまるいやつに、ティラノサウルスのようにかぶりついた。
あまくすっぱいトマトの汁は、どっと口からのどへ流れこみ、ほおから胸へと飛び散った。
「神さま、ありがとう!」
よっこもはるちゃんも、その神さまに握手してもらった。
その夜、よっこが姉さんに昼間のことを話すと、遠くのミッションスクールにかよっている姉さんは、「それはイエスさまにちがいない」と言った。
しかし、実際は、となり町の老人ホームをぬけだしたおじいさんなのだった。警察の人がさがしにきて、わかった。
よっこには信じられなかったけれど、トマト畑で神さまがわりをしてくれたそのおじいさんは、自分がだれであるかもわからないまま、二日間行方不明になっていたということだった。
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