2001.3.20
子のおかげ 豊かな出会い
この十年間、子どもたちに手を引かれて生きてきた。
離婚の痛手も、待ったなしの育児や家事に追われたから、いつし
か癒(いや)された。一人だったら、長く孤独感や悔恨に苦しんだ
だろう。
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イラスト・丸岡 輝之 | |
外で傷ついた心に、エネルギーも与えてもらった。仕事で自信を
失った時、子どもたちの「お父さん、こんなこともできるんだ」
「お父さんのご飯がお弁当よりおいしい」という言葉にどれだけ励
まされただろう。保護者会などで疎外感を感じた時も、帰って「こ
の子たちだけは味方だ」と思うことでどんなに心強かったか。
子どもたちは「様子が変だな」と思いつつも、無遠慮に問うので
なく、いつもより言葉少なに夕食時間を過ごしたり、兄妹げんかを
しないように気をつけて会話したりと、柔らかなまなざしで見守っ
ていてくれた。それで良かった。気遣ってくれていると分かって、
どんなに気分がなごんだことだろう。
多くの人と知り合えたのも子どもたちのおかげだ。離婚後ただの
独身だったら、仕事だけのつきあいに終わっていただろう。しかし
子どもとの生活では、いや応なしに多様な人間関係をつくらざるを
得ない。
多くの父親が、子どもの友達や担任の名前すら知らないが、私は
保育園や学童保育の保護者会の人たちとも親しくなった。子ども会
やPTA活動を通じての知り合いも増えた。
その中で、子育ての悩みは父子家庭だけではなく、どこも同じと
気づいて楽になった。
仕事だけに生きていたころ、周囲の目を気にしながら一生懸命に
描いていたのは写実画だった。細部にこだわり、クレームが付かな
いように。しかしどんなに精魂込めても、それはモノクロームの寂
しい絵だった。
子どもたちと暮らすと、生活の手触りを感じられる。日々の買い
物。町内会や学校の行事。何よりも子どもたちとの、友達がどうし
たとか、どの店で何が安かったとかの会話…。小さなことでも面白
かった。会話することが楽しかった。それが「生活」だった。
今の生活には、多彩な色がある。まるで子どもたちが絵筆に好き
な色を付け、私の人生を鮮やかに彩ってくれているようだ。
これから、苦しいこともあるだろうが、子どもたちに引かれる人
生を生きていこうと思う。時々は子どもたちの手も引きながら。
(一人親家庭サポーター=広島市)
=おわり=