育児と両立 環境整備を 当直免除など要望の動きも
「痛みはどうですか」。周南市の徳山中央病院の産婦人科の病棟。出産に立ち会った母親たちに、研修医の安沢彩子さん(27)が明るく声を掛ける。「先生の顔見ただけで安心する、なんて言ってもらえたりすると、本当にうれしくて」と安沢さん。母親たちとのやりとりは、研修の大きな励みになっている。
大学の病院実習で、命の誕生を支える産婦人科に興味がわいた。卒業後、徳山中央病院で臨床研修に臨んでいる。二年間の研修が終わりに近づく今も、「お産は魅力的。女性同士で共感できるメリットもある」。四月からは、産婦人科医師として専門性を磨くつもりだ。
▽つわりに耐え勤務
ハードな勤務や訴訟の多さから、若手医師の間で進む産婦人科離れ。そんな中、産婦人科では女性医師の割合が増えている。ほとんどの産婦人科医師が入会する日本産科婦人科学会。二〇〇六年度の入会者は、〇三年度より約百人少ない三百二十五人。うち、女性が三分の二を占めている。
しかし、妊娠や出産、子育てで、若い女性医師たちが現場を離れたら、ますます担い手がいなくなる。「危機感」が産科医療の現場に重くのしかかる。
広島県内の総合病院に勤務していた女性医師(33)は昨年八月、妊娠六カ月で病院を辞めた。「仕事を打ち切ったことへの後悔はない。代わりの医師に来てもらった方が、迷惑がかからない」と振り返る。
その病院の産婦人科の医師は計四人だった。妊娠後も、当直と自宅待機は月に十日に及んだ。つわりが続き、しんどかったが、「同僚に負担を強いる方がつらい」。当直を代わってもらったのは、二回だけだった。
一方で、「無理して、おなかの子どもに何かあったら」との不安も常につきまとった。自分と子ども、同僚にとって、「辞職」の方がいいと思った。
今年二月に長女を出産した。「産婦人科の医師として、お産の経験は仕事に直結する。働き続けたい」。そう思っているが、育児休暇をいつまで取るのか、まだ決めていない。
五歳と二歳の娘がいる豊福彩医師(36)は一年間の育児休暇を経て、昨年一月、広島市中区の中電病院の産婦人科に復帰した。病院が、日勤だけの勤務条件を受け入れたことが、復帰できた理由だ。
しかし、医師は三人。働き始めて三カ月後、他の医師の休日の少なさを軽減するため、月に二回、土日の当直を引き受けるようになった。「病院や周囲の理解を得て、働けることはうれしく、楽しい」と豊福医師は話す。
▽祖父母の助け必要
その上で、「子育ては祖父母の助けなしでは、できない状態。女性医師二人で一人ぐらいの、よりゆるやかな働き方ができればいいけれど、医師が足りない」と説明する。
子どもを産み育てる女性医師にとっても、働きやすい環境整備とは―。現場でも模索が始まっている。例えば、広島大医学部産婦人科の関連病院の女性医師たち。昨年八月に、「産婦人科女性医師の勤務を考えるワーキンググループ」を発足させ、妊娠後期の当直免除など、共通する要望を各病院に伝え始めている。
二月に開かれた広島市臨床産婦人科医会は、「女性医師の時代を迎えて」をテーマに掲げた。愛育病院(東京都港区)の安達知子産婦人科部長は講演で、こう指摘した。「女性医師の育成と、離職を止めることが、産婦人科医療の崩壊を救う一番の近道。早急に対応すべき課題ではないでしょうか」
■ 若手医師 産婦人科離れ ■
学会の入会者数 06年度も低水準
産婦人科医師の多くが入会する日本産科婦人科学会の入会者数が年々減り続け、女性の占める割合が大きくなっている。
二〇〇六年度の入会者数(十一月末までの八カ月分)は、〇一年度より三割少ない三百二十五人にとどまる。うち女性は二百七人で、その割合は、〇一年度より10・2ポイント高い63・7%と、ほぼ三分の二に膨らんだ。
入会者数が大きく減ったのは、新人医師が免許取得後の二年間、内科や外科、地域医療など幅広い診療経験を積む「臨床研修制度」がスタートした〇四年度から。医師の診療科選びが大学卒業後すぐではなく、二年間の研修修了後にずれ込んだため、とみられている。
しかし、研修制度を終えた医師が従来通り戻ってくるはずの〇六年度も、入会者数は研修開始前の水準に届かない。同学会の桜田佳久事務局次長は「産科医師の過重勤務や訴訟の多さを若い人たちが敬遠している」と分析している。
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