産婦人科休診に拍車も 不安解消には医師育成急務
「救急処置が必要な妊産婦を、福山市民病院以外で受けてもらえるかどうか」。同じ福山市内で開業する産婦人科医師から切実な不安の声が漏れる。救命救急センターになっている市民病院が四月から産婦人科を休診せざるを得なくなった事態が、地域の産婦人科医療に波紋を広げている。
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4月から産婦人科が休診となる福山市民病院 |
休診は、岡山大病院(岡山市)が、市民病院への産婦人科医師二人の派遣中止を決めたためだ。他の診療科に比べてハードな勤務や訴訟の多さから、分娩(ぶんべん)を担う産婦人科医師不足が全国で深刻化していることが背景にある。「人数が足りないのだから、集約化するしかない」。岡山大医学部産科婦人科の平松祐司教授は、そう説明する。
集約化とは―。主として公的な総合病院の「産婦人科」を統廃合し、産科医師や産科設備を少数の病院に集中させる仕組みづくりを指す。産科医師が減少する中、医師を特定の病院に集め、一人当たりの当直日数や夜間の呼び出し回数を軽減。分娩時の緊急事態に複数の医師が対応できる態勢を取り、母子双方の安全を守るのが狙いだ。
広島県、広島大、岡山大などは今、広島県内七つの二次保健医療圏ごとに一〜三カ所の「基幹病院」を設定する「集約化案」について、これから検討を進めようとしている。
では、集約化すると、どうなるのだろうか。ばら色の未来が開けるわけではないことは確かだ。産科医師が増え、機能が強化される病院ができる一方、「産婦人科」が姿を消す病院も現れることになる。
▽現実が一歩先進む
福山市を含む福山・府中地域。福山市民病院に代わる、産婦人科の救急搬送の受け入れ先として名前が挙がっているのは、地域周産期母子医療センターに指定されている国立病院機構福山医療センター(福山市)だ。同センターは、集約化案の基幹病院として、機能が集約される可能性も出ている。現実の方が、まだ検討段階の「集約化案」の一歩先を進もうとしているかのように見える。
中山間地域の備北地域では、救急搬送以前に、分娩できる施設が近くにあるかどうかが問題となっている。庄原市内で唯一の分娩施設だった庄原赤十字病院は、産婦人科医師が確保できず、二〇〇五年四月から分娩を休止している。再開のめどは立っていない。一方で、県内に医師を供給する役目を担っている広島大は、県地域保健対策協議会(県地対協)の集約化案で基幹病院となっている三次市立三次中央病院には、今後、医師を増やす方針を示している。
「産科医師が減っているのだから、やむを得ない」。広島大の弓削孟文副学長(医療担当)は、一部の病院の産婦人科がなくなることへの理解を求める。半面、各地域の基幹病院は、早産などハイリスク分娩がきっちりとした態勢で担える体制を強化し、県全体のセーフティーネットは整えたい考えだ。
弓削副学長は「今後、都市部の病院を集約化し、周辺部に医師を振り向けたい」と力を込める。同時に、分娩施設の空白地帯の対策も課題と考えている。分娩ができない地域での健診や、基幹病院までの母子の搬送態勢、通院の経済的支援をどうすべきなのか。地元自治体や、地区医師会との協議は始まったばかりだ。
▽山陰は統廃合限界
もちろん、産婦人科医師の集約化は広島県内に限った動きではない。厚生労働省は、各都道府県に対し、「集約化」ができるかどうかを今月中に判断するように求めている。広島、山口、岡山の各県は都市部と周辺部の調整を模索する。
しかし、山陰地方の医師不足はさらに深刻だ。島根、鳥取両県は、既に産婦人科の統廃合が限界に近い状態。「これ以上、どうやって集約化すればいいのか」と、そろって悲鳴を上げている。
検討中の集約化が結局は、人数の限られた医師をどう配置するかにとどまっているからだ。医師が比較的多い都市型の対策ともいえる。広島県医師会の碓井静照会長は、こう強調する。「集約化は、ごく短期的な対策にしかなり得ない。地域の産科医療を支えるには、やはり、産科医師を増やすしかない」
■ 全県視野 3中核機関 ■
広島県集約案 基幹病院は医師6人
広島県内の産科医師や施設の集約化案では、全県を視野に入れた三つの中核的医療機関と、県内に七つある二次保健医療圏ごとに一〜三カ所定める基幹病院に、医師を集めることが検討されている。
中核的医療機関は、広島大病院(広島市南区)や、総合周産期母子医療センターに指定されている県立広島病院(南区)と広島市民病院(中区)の三病院。ハイリスク分娩を受け入れる基幹病院は、産科・婦人科医師が六人▽年間分娩数が八百件▽小児科と麻酔科のバックアップがある―ことなどが条件として挙げられている。
集約化案は、県や広島大などでつくる県地対協が昨年夏から検討。まだ、「たたき台」の段階で、これから地元自治体や地区医師会、関係する病院と、具体的な協議・調整に入る。
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