中国新聞


【社説】子宮頸がんワクチン
検診の必要性も認識を


 病気を防ぐ効果と、副作用のリスクをどうみるか。まずは保護者や対象者に対する丁寧な情報提供が求められよう。

 子宮頸(けい)がんワクチンのことである。この4月から10代半ばの女子を対象に定期接種となったばかりだ。ところが先週になって一転、厚生労働省は積極的な接種の呼び掛けを一時中止するよう全国の自治体に勧告した。

 接種後、激しい痛みやけいれんを発症した人がおり、ワクチンとの因果関係を否定できない。厚労省の専門部会がそう判断した。

 慎重を期して立ち止まったのだろう。だが接種を受けていいのかどうか、はっきりしないまま保護者に判断が任されることになる。戸惑いも多いはずだ。

 日本では毎年約8千人が新たに患者と診断され、約2700人が死亡しているという。特に20〜30代の女性では発症率が最も高いがんである。

 ウイルスの感染経路が性交渉に限られており、若いうちにワクチンを接種すれば予防効果は高いとみられている。医療関係者らから無料化を望む声が上がり、国会でも与野党双方が前向きな姿勢を見せた。

 政府は2010年度半ばに、時限措置としてワクチン接種への助成を開始。本年度、全額公費負担となる定期接種とした。小学6年から高校1年が対象で、3回に分け接種する。

 ところが今年3月までの約3年間で、副作用が疑われるケースが1968件に上ることが明らかになった。このうち症状が重いのは106件。発生頻度がインフルエンザを上回ることは無視できない。

 最初は「他のワクチンと比べて特別高いとはいえない」とした厚労省も、問題がさらに広がりかねないと判断したのだろう。今回の措置に転じた。被害者団体は、ほかにも相当数の事例があると指摘する。

 子宮頸がんのワクチンは100カ国以上で普及している。とはいえ日本で使用されてから日は浅い。インフルエンザなどと違って急な経過をたどる病気ではないことからも、ここは実態解明を優先させるべきだ。徹底的に副作用の情報を集め、迅速な公表に努めてほしい。

 ワクチンの安全性を検証するのを機に、子宮頸がん対策全体を練り直すべきではなかろうか。病気から自らの命を守る柱は、予防と早期発見である。定期検診の意義を再確認したい。

 そもそもワクチンで予防できるのは、子宮頸がん全体の7割という。定期検診で早期に発見し手術した後、無事に妊娠と出産をした人も少なくない。

 全国の市区町村では20歳から2年に1回、集団検診の会場や医療機関で受けることができる。自治体によって自己負担額は異なるが、通常は無料から2千円未満である。加えて国の時限措置として、20歳から40歳まで5年刻みで無料検診のクーポン券も配布されている。

 ところが子宮頸がん検診の受診率は、全国平均の24%は上回るとはいえ広島県が29%、広島市でも33%にとどまっている。

 ワクチン接種の行方にかかわらず、検診の大切さは変わらない。行政の取り組み方で受診率に差が出るとの指摘もある。学校現場を含めた効果的な啓発や、気軽に検診を受けてもらうための工夫をもっと考えたい。

(2013.6.18)


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