成熟社会に合う教育は 公立の小中高を週6日制に戻すよう、文部科学省が検討を始めている。自民党が政権公約に掲げていたもので、下村博文文科相が明らかにした。 土曜日も授業をすることによって、「ゆとり教育」で低下した学力の向上を図るという。 「世論の理解はあると思う」。下村文科相は記者会見でそう述べている。 本当だろうか。週5日制はもはや社会に定着し、企業など働く場でも週休2日が主流である。教育の場だけ元に戻すことが、すんなり受け入れられるだろうか。話を進めるには時間をかけて議論し、理解を求める手続きが欠かせまい。 週5日制は学校と家庭、地域が連携し、子どもたちの自ら学び考える力を育むために導入したものである。ゆとりの中で「生きる力」をと触れ込み、それも自民党政権下で推進したのではなかったか。 20年以上前から段階的に導入し、完全実施となった2002年4月からしても10年の歳月が経過している。効果や課題の点検と説明が求められよう。十分な検証もないまま見直すのは性急と言わざるを得ない。 国際学力調査の順位が下がり、保護者などから「授業時間が減り、学力低下を招いた」との批判が上がった。 そうした流れから、教科書の上では既に「ゆとり教育」は見直しが進んだ。新学習指導要領が小中で実施され、高校でも新年度から全面改定となる。 分厚く、中身が濃くなった教科書を消化するには5日制では授業時間が足りない―。そんな現場の事情もあるようだ。 文科省が定める例外規定に基づき、北九州市など一部の教育委員会では独自の指針で土曜授業を復活させている。東京都は月2回を上限に土曜授業を実施しており、岡山県教委も同様の対応を検討している。 国の調査によると、11年度には土曜などに保護者や地域向けの公開授業を行った学校が公立小で5・7%、公立中で6・4%あるという。 先行している自治体での検証も欠かせない。休みの土曜を活用し、学校行事や地域主導のスポーツ活動、体験学習に充ててきた時間は確保されたのかどうか。家族のライフスタイルにも影響は及んでいるはずだ。 そもそも、自主的な学びこそが「生きる力」につながるとしてきた教育の理念そのものは、一体どうするのだろう。 高度成長の時代には知識偏重の「詰め込み」教育がもてはやされた。右肩上がりの成長神話と歩調が合っていたのかもしれない。その後、豊かさの重心がモノから心へと移り、掲げられたのが自ら学び、考えるゆとり教育だった。 安倍晋三首相は年頭所感で教育再生に触れ、「世界トップレベルの学力を取り戻す」と強調した。しかし、授業時間が増えるほど学力も向上するという見方には、専門家の間でも意見が分かれている。 教育現場をみても心もとない。慢性的な繁忙が指摘され続ける中で授業時間を増やせば、結果は見えている。 教育を考えることは、私たちの未来を描くことでもある。成熟社会にふさわしい教育の在り方について、国民的な議論を喚起する必要がある。 (2013.1.21)
|