【社説】貧困や虐待などが原因で、帰る家庭のない子どもたちが増えている。中には働き始めようとしても難しかったり、非行に走ったりするケースも少なくない。 そんな子どもたちに住まいと食事を格安で提供し、安定した仕事に就くための支援をするのが「自立援助ホーム」だ。心に傷を抱えたままでは、何とか就職先が見つかっても長続きしない。ホームが必要とされる理由である。 児童福祉法に基づき全国に約70施設ある。中国地方で唯一空白だった広島県にようやく今年、第1号ができた。 広島市西区に開所した援助ホームは女子専用で定員6人。非行や不登校の子どもを支援してきたNPO法人が「放っておけない」と民家を利用して開いた。 児童相談所を通じて入所する。本人の負担は月3万円。中学卒業以降、最長で20歳になるまでスタッフと一緒に暮らす。福祉専門職や元学習塾講師ら職員3人に加え、障害者支援の経験があるボランティアもいる手厚い態勢だ。 1月下旬から住む少女は高校を中退し児童養護施設を出た。ホームでの家事を通じて表情が次第に豊かになった。アルバイトのほか職員の勧めで演劇にも挑み、表現力を磨いている。「毎日が充実して楽しい」と話しているという。 ホームでの暮らしが家庭に代わる新たな「居場所」になっているようだ。非行経験のある子どもたちにとっても再出発に向けたよりどころとなるに違いない。 一番の課題は社会資源としてまだ広く知られていないことだ。親の虐待などに苦しんでいる子どもが、自分の意思や周囲の勧めで利用できるような手だても検討するべきではないだろうか。地域住民の理解と支援が何より欠かせないことは言うまでもない。 全国の自立援助ホームでつくる協議会によると、施設側が最も苦慮しているのはリストカットなどの自傷行為だという。生きづらさを抱える子どもたちをどう支えていくか。心理的ケアの重要性が増しているといえよう。 財政面では入所者1人当たり月約20万円が措置費として施設側に支給される。広島市のように独自の助成金を出す自治体もあるが、まだ十分な額とはいえない。 親元で暮らせず児童養護施設にいる子どもは広島県内で約700人。この10年で1割近く増えた。高校卒業までいることができるが、中退して出るケースも多い。 県のプランでは4年以内に3カ所以上のホーム設置を掲げる。広島市内では弁護士らが設立した別のNPO法人も開設に向けて準備を進めている。 今は他県に行かざるを得ない男子が入れるホームの開設を急ぐ必要がある。県東部にも早い時期の設置が望まれる。 行政と民間が手を携えて一人一人に寄り添っていく手法は、これからの地域福祉を考えるヒントにもなろう。若者をはじめ誰もが輝いて生きていける地域づくりにつなげていきたい。 (2011.3.7)
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