□■ 百ます校長の通信簿 ■□
二十四日、尾道市立土堂小は本年度の修了式を体育館で行った。一〜五年生の二百十四人が元気よく校歌を合唱した後、各学年の代表が陰山英男校長(48)から修了証書を受け取った。
最後の修了式 式辞。「皆さん知っての通り土堂小を辞めてよそのまちへ向かいますが、今君たちの立派になった姿を見ると心強く思います」。感慨深げに子どもたちを見詰める陰山校長。「強い心と優しい心を持って頑張ってください」。校長として全校児童に手向ける最後の言葉となった。 二〇〇三年春の就任と同時に、独自の学習理論「陰山メソッド(方式)」を持ち込んだ。「現場の教師たちに私の哲学は浸透した」。陰山校長は今、同小での実践継承に期待を寄せる。教員らにはしかし、「保護者の期待に応え続けなくては」という重圧があるのも否めない。 校長と同じ〇三年春、公募で着任した藤井弘之教諭(37)は「陰山校長がいなくなってだめになった、と思われないよう結果を残し続けなければならない」。緊張感の中で重圧を受け止める。 複雑な思いを抱く保護者もいる。四月に学区外から長男(6)が土堂小に入学する母親(40)は「陰山校長だから学区外からの通学を決めた面もある。新年度から学校の教育方針が変わるのでは困る」と打ち明ける。 保護者の要望を学校運営に反映させる組織が、土堂小にはある。「土堂小学校運営協議会」(会長・稲田全示尾道大教授)。大学教授やPTA代表、住民ら七人で構成し、教育方針や教職員の人事にも意見できる。〇五年七月、文部科学省の事業指定を受けて県内で初めて設置した。 協議会は一月、学校運営の指針「〇六年度土堂小ミッションステートメント」を建議した。「基礎・基本を大切にし、確かな学力をはぐくむ」「尾道の魅力を追求する」など五項目を定め、実践の継続を求めた。 「お題目ではなく、今後も『土堂方式』として継承することが大切だ」。稲田教授は、陰山メソッドを受け継ぐ必要性を力説する。 DVD発売へ 陰山校長は今、自らの実践を伝えるガイドブックを作製している。土堂小でのモジュール授業の様子を収めたDVDと冊子をセットに、三年間で確立させた「土堂方式」を形にして残す。五月末をめどに完成させ、ほかの学校でも実践できるよう市販もする。これも、教育図書で数々のベストセラーを生んできた「陰山方式」と重なる。 「読み・書き・計算」の反復学習、「早寝・早起き・朝ご飯」の生活習慣を核にする独自の教育理論と実践。保護者や地域の支持を集める一方、市内や広島県内には浸透せず、全国的には注目を集める―。三年間の取り組みは、中心、内、外と三つの同心円を描き、異なる反応を生んだ。 陰山氏の実践は、土堂方式へと昇華して受け継がれ、周辺校にも広がるのか。「カリスマ校長」が去った後、真の評価が下る。(榎本直樹)
(2006.3.25) |