中国新聞


□■ 百ます校長の通信簿 ■□

(上)様変わり
  反復・数値化 高い支持

 「読み・書き・計算」の反復学習で知られる尾道市立土堂小の陰山英男校長(48)が、三月末で退任し大学教授に転身する。二〇〇三年春、公立小では全国初の公募で就任して三年。「陰山方式」は学校、家庭、地域をどう変え、何を残したのか。保護者六人の「採点」を交えながら点検する。(榎本直樹)

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 午前六時半。同市高須町の槙原清隆さん(41)方の食卓に、いつものご飯とみそ汁が並ぶ。土堂小三年の有紀さん(9)と一年千紘さん(7)は食べ終えると、母尚子さん(36)の車とJR山陽線を乗り継ぎ、約三十分かけて登校する。両親は、二人の入学する小学校を「学区外」に選んだ。

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辞典を引き、熟語の意味を音読する土堂小3年生。付せんの束が「反復」を物語る

 火〜木曜の一時間目、全学年が反復学習に取り組む「モジュール授業」。有紀さんの三年一組は、そらんじた漢詩や百人一首を発声した後、黙々と計算問題を解く。続いて別室でパソコンのキーボードを打つ練習が待つ。四十五分間を三分割し、十五分刻みで流れるようにこなす。

 「早寝・早起き・朝ご飯」と、こうした反復学習の実践が「陰山方式」の柱となる。「生活習慣の改善と脳のトレーニングが学力を伸ばす」という理論である。漢字検定の合格率や学力検査の結果など、成果を数値化するのも特徴だ。一九九八年の文部省の是正指導以後、大きく様変わりした広島県の公教育を象徴する光景でもある。

 90%が「満足」

 「何もそこまで」「学力偏重では」―。周辺校の保護者には、こんな見方がある。機械的な学習の繰り返しに、違和感を口にする教育関係者も少なくない。「是正指導の大きな眼目に学力向上があった。その先鞭(せんべん)をつける狙いがあった」。陰山氏採用の経緯を県教委OBは、こう明かす。

 周辺の見方をよそに、土堂小の保護者の満足度は極めて高い。〇五年十一月、保護者や大学教授らでつくる同小運営協議会が無記名で行った保護者アンケート。学力定着に対する回答は「大変満足・満足」が90%に上った。槙原さんは「何度も難しい課題に挑む辛抱強さが、身に付いてきたと思う」と姉妹の成長ぶりをみる。

 児童数3.5倍に

 保護者の満足度は、児童数に反映する。尾道市教委は〇三年度から、小学校の通学区域を自由化した。それに伴い〇二年度に六十五人だった土堂小の児童数は、〇五年度は約三・五倍の二百二十九人に膨れ上がった。

 「運動会もにぎやかになった。ドンドンと和太鼓を練習する音が朝から響いて」。学校近くに住む西山手東町内会の稲本芳雄会長(76)が目を細める。児童が減り続け、一時は閉校もささやかれた土堂小。地域も陰山校長を「再生の旗手」と受け止める。そんな中で突然、陰山校長の立命館大への移籍が表面化した。

 二月二日、土堂小の図書室での保護者懇談会。陰山校長の就任時に入学した三年生の保護者二十四人が集まった。校長の取り組みへの評価が相次ぎ、「もう少し残ってほしかった」と求める声も出た。「四月からどうなるんでしょうか」。懇談会後、母親の一人は不安を漏らした。

 「一人が引っ張る実践は長続きしない」と語る陰山校長。自ら吹き込んだ独自理論の消長を、後任と残る教職員に委ねる。

保護者の5段階評価
 1年生
父親
(41)
2年生
母親
(31)
3年生
父親
(45)
4年生
母親
(42)
5年生
母親
(44)
6年生
父親
(34)
子どもとのふれあい
親しみやすさ
学校のムードづくり

(2006.3.23)

(中)ドーナツ化(下)カリスマ後


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