「中1ギャップ」解消へ 松江市で2010年4月、全15市立中学校区で小中一貫教育が始まる。一貫教育は全国的に広がりを見せているが、全市導入は中国地方ではまだ数例。進学に伴い不登校などを招く「中1ギャップ」解消や地域に合った教育を目指すため、市教委は多様な形態を模索している。(川上裕) 「できた」。児童の声が上がった。同市山代町の湖東中で、来春入学予定の竹矢、大庭小の6年生約60人が一緒に算数を学んだ。 ▽指導のコツ学ぶ 一貫教育も視野に入れた合同授業。講師に筑波大の坪田耕三教授(62)を招いた。児童は封筒を折り、画用紙をはさみで切るなど中学校で学ぶ「線対称」や「正四面体」を学んだ。 「初めての中学校で緊張したけど楽しかった」。大庭小の金坂侑美さん(12)は笑顔を見せる。教諭約30人も坪田教授の指導のコツを盗もうと聞き入った。 坪田教授は「中学でいきなり図形の概念を学ぶより、小学校で手を使って覚えることが大切。発達段階に応じ小中で一貫したカリキュラムを組むことで、教育効果を発揮できる」と一貫教育のメリットを指摘する。 市教委も小中の教職員の連携で、9年間の学習、生活の一貫した指導を進められるとする。計画では、小学34校、中学15校の全校で実施。現在、独自カリキュラムを作成中だ。 さらに、最大の目的は「中1ギャップ」の解消。中学校に進んだ時、環境になじめず、不登校や学力低下が起こりやすい。子どもの心身の成長が早まり、中学進学の時期に思春期を迎える子どももおり、不登校の要因の一つとみられている。 市教委がまとめた08年度の中1の不登校生徒数は54人と、小6の約2倍。10年前から取り組む先進地の呉市の「呉中央学園」では、不登校の生徒が減っているとの報告がある。 市教委の小中一貫教育推進課の園山信夫課長は「小学高学年と中1のつながりを強めてギャップを埋めたい」とする。八束中学校区で一貫教育を研究する今井貴子教諭(48)は「中学生は年下と接することで自尊感情が育まれる」と、別の効果も指摘する。 ▽教職員の負担増 ただ、課題もある。全市で導入すると、小中学校の場所や数は地域によって異なる。行き来など教職員の負担も大きく、取り組みに温度差が出、地域格差が生まれかねない。 市教委は、施設を一つにする「一体型」、隣り合った施設を活用する「隣接型」、年に数回、合同授業などする「複数型」などさまざまな形態をそろえ、課題の克服を目指す。11年度には、八束町の八束小と八束中の一体型の校舎を建設する。小中では、県内初の施設一体型となる。 本年度から年6回程度、15中学校区の校長が意見交換も始めた。「複数型の中でも多様な形を模索している。一律に取り組むのではなく、地域の特色を生かした教育を推進したい」と園山課長。 小中一貫教育に詳しい千葉大教育学部の天笠茂教授(59)は「施設一体型の一校だけでなく自治体レベルで進めるのは現実的で望ましい。小中文化の違いがあり、双方の教員が同じテーブルに着いて議論するにはエネルギーがいる。時間はかかるが、義務教育の質を高めることにつながる」とアドバイスする。 (2009.10.12)
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