中国新聞


広島県初の公立小中一貫校
呉中央学園 4月開校

− 継続的な検証必要 −


 全国に先駆けて小中一貫教育に取り組んできた呉市に四月、広島県内初の公立小中一貫教育校「呉中央学園」(愛称)が開校する。七年前から積み重ねた研究を基に、一貫教育の利点と成果を強調する市教委に対し、保護者側には説明不足に対する不満がくすぶる。市議会も課題を指摘している。市内全域で導入する試金石となるだけに、市教委には継続的な検証と理解に向けた説明責任が求められる。(呉支社 新山創)

 ■保護者に説明尽くせ

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二河中の数学担当教諭(手前右)から直径や対角線について学ぶ五番町小の6年生

 少子化による学校統合を背景に、特色ある教育を目指す市教委が一九九九年、市中心部に隣接する二河小、二河中と、道路一本隔てた五番町小の三校で一貫教育を計画。二〇〇〇年に文部科学省(当時文部省)から、全国初の小中一貫教育の研究開発校に指定された。

 義務教育の九年間を小中学校の教諭が連携して指導し、中学に進む際の児童の人間関係や勉強に対する不安を軽減する狙い。カリキュラムは中一から問題行動が顕著になる事例などを基に、前期(小一〜小四)中期(小五〜中一)後期(中二〜三)の「4・3・2区分」を採用。異学年交流や小学校での一部教科担任制などを導入した。

▽学力向上が自信生む

 手本はなく、試行錯誤が続いた。中学教諭の授業は小学生に理解されず、年齢の近い異学年交流では下級生が逆に主導権を握り、選択教科ではコースの人気が偏った。

 当初から小中学校を兼務してきた二河中の二宮肇美教諭(47)は「いばらの道。苦労ばかりだった」と振り返る。延べ二百人の教諭が互いの授業を参観し、年間五十回以上の会議を重ねて工夫した。

 市教委によると、〇二年度から〇五年度で、二河中の不登校生徒は二十人から十一人に減少。三件あったいじめはゼロになり、〇五年度の中三の全国学力テストでは英語、国語、理科、社会、数学の五教科すべてで全国平均を上回った。

 成果が出始め、批判し合うこともあった教諭の間で「九年間で子どもを育てよう」と、意識の変化が表れた。先進的な取り組みに視察も相次いだ。三校を訪れた教育関係者は〇一年から今年一月まで四十都道府県、計約千四百人に上る。

 市教委教育改革推進室の原真市室長(55)は「学力向上だけでなく、自信を持って生きていける子どもが増えた。高く評価できる」とし、今後も長浜、横路、警固屋、蒲刈の各中学校区に一貫教育校を設置する考えだ。

▽事前説明会2回だけ

 先行する呉中央学園は二河、五番町の両小と二河中が既存の校舎の一部を使いながら、一貫校としてスタートする。

 ただ、保護者には不満も残る。市教委による開校前の事前説明会は、昨年三、十二月の二回だけ。PTAに地域も加わる五番町小PTCAの松本好生会長(44)は「仕事で出られない親もいた。十分とは言えない」と指摘。開校後に問題が生じた場合、すぐに知らせてもらえるか心配する声があるという。

 懸念は市議会でも噴出した。一月二十二日の教育経済委員会で出たのは「資質が違う先生に周知できるのか」「一貫校と他の公立校の間で格差が生じ、不平等感が出るのではないか」など、危惧(きぐ)する意見だった。

 子どもに良い教育を受けさせたいとの思いは保護者、学校、地域に共通する。成果を出すには三者の協力が欠かせない。それだけに、市教委は九年間を通じたデータを保護者らと共有し、十分な理解を得てほしい。小中連携を調整する教諭の育成も急がれる。今回の開校は達成でなく、新たなスタート。真価が問われるのは、まだ先だ。


小中一貫教育 小中学校の9年間を一体ととらえて指導する。昨年8月時点で、全国41の自治体などが文部科学省の研究開発校の指定を受け、54の自治体と学校法人も教育特区で小中連携に取り組む。広島県内では呉、府中両市が市全域で推進。教育課程は「4・3・2区分」が一般的で「5・4区分」などもある。

(2007.2.1)


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