松田・隠岐の島町長に聞く 常勤の産婦人科医師を確保できず、当面の出産断念という苦渋の選択をした島根県隠岐の島町の隠岐病院。町が中心となってまとめた本土出産の支援策を発表してもなお、離島に不安や不満がくすぶる。「決して隠岐だけの問題ではない。地方が連携し、医師不足解消に向けて国を本気で動かさないと」。同病院を経営する隠岐広域連合長で、医師探しに奔走し続けた松田和久町長(61)はそう訴える。(城戸収) ■住む地で産む願い当然/国の抜本対策が不可欠
島根大医学部(出雲市)が隠岐病院に産婦人科医師の派遣をやめた二〇〇四年九月から、町の医師探しは始まった。隠岐や県ゆかりの医師を訪ね歩き、ようやく見つかったのが昨年秋。関西在住の医師だった。ところが、今年二月下旬、両親の病気、介護を理由に断りの連絡があった。 昨年夏に夫妻で島に来てくれて、二月初めには四月に着任できると連絡があったばかり。本当にびっくりした。私も町議会議長や県議と三月二十六日に会いに行き、最後の説得をした。だが、事情を聴くと、これ以上追い込むのは酷だと思った この医師の着任が不透明になり、県内の別の医師に働き掛けた。島根大医学部の「医局人事」も絡むため、同大関係者への要請を繰り返した。 大学側から断りの連絡があったのは三月三十一日夕。県立中央病院(出雲市)からの派遣を延長してもらう要請のため、知事室へ入る直前だった。島根大が最後の頼みの綱で、万策は尽きた。ただ、島根大医学部には、開学の精神を思い出してほしい。地域医療への貢献が使命ではないのか。本当に無念だ 全国的に産婦人科医師が不足し、確保できたとしても一人が精いっぱいで、本土で出産した方がより安全性が高いと指摘する医療関係者もいる。 医学的にはそうかもしれない。だが、住み慣れた地で産みたいと願うのは当然。産婦人科医師がほしいというのはわがままだろうか。緊急事態でも自力で本土の病院に行けない離島に不可欠だ。もう子どもは産めないと思う女性は多く、町は急激に子どもを失う。少子化、子育て施策も空々しいだけだ 町長は「政治生命をかけて医師を確保する」と言うが、打開の道は今のところ見えない。 医師不足はもう、自治体が頑張れば解決する問題じゃない。同じ悩みを抱える離島や過疎地が連携し、国に抜本的な対策を訴えよう。離島であれば互いに医師を融通しあうネットワークをつくってもいい。離島で人が生きているからこそ日本の国土は保たれている。その役割をもう一度、多くの人に考えてほしい (2006.4.15)
|