4.別居が普通・台湾 −子どもと同居 試行錯誤
手元に置きたくなって
義父母が支え仕事
台湾生まれの大学講師李郁恵さん(35)は毎週水曜、東広島市内の自宅に夫の健一郎さん(37)と長女華琳ちゃん(4)を残し、勤務先の京都の大学に向かう。金曜まで三日間働いて、東広島に舞い戻る。留守の間は毎朝、健一郎さんが華琳ちゃんを保育所に送る。お迎えは、市内で暮らす健一郎さんの両親が受け持っている。
台湾では、都市部に出て働く夫婦の場合、どちらかの郷里に子どもを置いてくる人が多い。幼稚園に上がるくらいの年齢まで、実家の親の「孫育て」を頼って預けっぱなしにするという。
「台湾に住む日本人から『何でそうまでして働くの?』とよく聞かれたけど、仕事を辞めるのはもったいないこと。親が元気なら孫をみてもらうのは当たり前なんです」。台湾政府の調査では、子育て世代の男女とも約75%が仕事を持つ。
「台湾の母親の多くは子育てにとらわれていない」と李さん。
裏付けるようなデータがある。東京、ソウル、北京、上海、台北の五都市で昨年、ベネッセ教育研究開発センター(東京)が幼児を持つ母親の子育て意識を調べたところ、「子どもがかわいくてたまらない」と答える母親が東京の97・6%を最高に四都市で93%以上だったのに対し、台北では88・2%。「子育ては楽しくて幸せ」との回答も台北では80・8%で、他都市より10ポイント以上も少なかった。
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李さんも台湾にいる時はそれが普通と思っていた。留学先の日本で結婚し、試行錯誤しながら親子で暮らすうち、「手元で子どもを育てたい」と思うようになった。
李さんは一九九四年、文学研究で広島大に留学。博士号を取った二〇〇〇年、同大職員の健一郎さんと結婚。台湾の大学で教員採用が決まったため、「別居婚」の形を取りながら〇二年四月に華琳ちゃんを産んだ。
同年九月、京都の私立大にポストが見つかり、再来日。土・日曜だけ夫と過ごす「週末婚」状態で、娘は親身な義父母に預けたり、ベビーシッターを雇って京都で同居したり、親子同居のいろんな形を試してみた。
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華琳ちゃんが二歳になった〇四年、週三日まとめて京都に通って講義をすればよくなり、やっと今の生活パターンに落ち着いた。「でも、おじいちゃんおばあちゃんが近くにいなかったら親子三人の同居は難しかった」。義父母の敏之さん(73)、治子さん(67)にすっかり懐き、楽しげな娘の姿にほおが緩む。
日本と同じように、台湾社会でも晩婚カップルが増え、子どもを産む数は減っている。孫を切望する祖父母が多い半面、「自分の時間を守りたい」と、孫育てをしたがらない祖父母も増えているという。台湾の全国紙でも最近、「孫育て」の負担から関節痛になったとか、孫の子守で趣味の時間を奪われそうになったとか、家族間のトラブルを嘆く戦後生まれの祖父母の特集記事が載った。
「孫との触れ合いで私たちも存分に楽しんでいる。面倒を見るというよりも、支え合いですよ」と言う、しゅうとの敏之さんは「週に三日くらいのことだし、私たちが趣味を楽しむ時間はちゃんと守れている」とも。李さんは「義父母の生活を大切にしながら、この連携を大事に保っていきたい」と願っている。(森田裕美)
2006.5.2