「孫育てのとき」

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第1部 祖父母力

5.育児支援 −押し付けず聞き役から

嫁に助言しないと…力みがあったかも


よその子通じ自身省みる

 よちよち歩きの男の子が両手を広げ、甘えてくる。立てひざで目線を合わせ、抱き寄せた中野奈々子さん(53)=広島県海田町南幸町=の優しいほおずりに、男の子は安らいだ笑顔を返す。

 海田町のビル二階にある託児所「ひまわりランド」。スタッフはみんな、五十〜七十歳代の女性だ。県内では府中町に次いで二カ所目のシルバー人材センター直営の託児所で、二〇〇二年十二月に開設した。

 「抱っこなどのスキンシップで自然にあやせるのはシルバー世代ならでは。若い人は、テレビやおもちゃに頼りがち」。事務局長の百本邦子さん(64)は信頼を寄せる。託児費が割高なのに保育所からの預け替え組がいるのも、信頼感の表れだ。開所以来、利用者は増え続け、〇四年度は月平均で延べ二百五人がわが子を預けた。

    ◇

 十六人のスタッフで週六日、乳幼児を預かる。「孫育て」の現役や既に一段落した人が多く、やりがいは「子どもの笑顔」と口をそろえる。後を追い、廿日市市シルバー人材センターも〇五年五月に託児所を開いた。

 内閣府は〇五年、子育て支援に対する意識を年代別(十五〜七十九歳)に聞いた。「地域の子育て支援活動に参加したい」意欲は、四十〜六十歳代の女性で20%強に達し、他世代の女性や男性より抜きんでた。

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 実際、中高年の子育てボランティア組織も中国地方の各地で産声を上げている。少子化対策を急ぐ国も、余暇や第二の人生を育児支援につなぐ動きを加速させたい意向だが、異世代間の橋渡しには思わぬ落とし穴もある。支援を望む子育て世代と中高年ボランティアとの育児観、仕事観のずれである。

 広島市内の公民館職員は最近、若い母親のぼやきを聞いた。「そろそろ働きたい」と思い、育児支援の公民館サークルに入った。年配メンバーに相談を持ちかけたら、「子どものそばにずっと居てあげなきゃ駄目じゃないの」と、頭ごなしにしかられたという。

 「こうしんさい、なんて若いお母さんに指示しちゃあいけません」。昨年暮れ、東広島市八本松であった中高年向けの育児セミナー。広島市南区の教室でベビーシッター講座を教える森貴久美さん(40)=広島市安佐南区=は「母親の応援役に徹して」と強く戒めた。

 中高年は自分の過去の経験や知識だけを頼りに、子育て法を新米ママやパパたちに指導しがち。それが子育て世代には「押し付け」と映ってしまう、という。

 「若いお母さんの悩みをじっくり聞き、それでいいのよと、まず言ってあげて」と森さん。「私の子育ては間違っていない」と心に余裕を持てれば、子どもの心の成長にもつながると伝えた。

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 じっと講演に聞き入っていた主婦古西紀子さん(65)=同市高屋町=が言葉を漏らした。「本当にお世話する必要があるのは、孫ではなく、母親の方だと気付かせてもらいました」

 古西さんは市シルバー人材センターに入り、保育所への送迎など子育て支援サービスをする傍ら、隣宅に住む長男夫婦の娘三人の面倒をみている。「嫁に助言しないと、という力みが知らず知らずあったのかも。気が楽になりました」

 育児経験や余暇を生かした「よその孫育て」。地域の子育て力をアップさせるだけでなく、わが家の育児へのかかわり方や孫育ての姿勢を省みるきっかけをくれる。

 「経験のみに物いわせるのではなく、現役の子育て世代の意見に耳を傾けたり、今どきの子育て事情を学んだりする柔らかな姿勢が、祖父母世代には必要です」と、森さんはアドバイスする。(野崎建一郎)

=第1部おわり

2006.1.7