4.二世帯住宅 −だから仕事続けられる
2つの玄関。電気・水道メーターも別
甘え過ぎず適度な距離
医師の安田貴恵さん(32)=広島市東区=は、長男朋生(ともき)ちゃん(2)をあやしながら、ふと思う。「核家族のまま住んでいたら、常勤医は続けられなかったかも」
二〇〇〇年十一月、職場の先輩医師だった季道(としみち)さん(36)と結婚。「子どもはどうするの」。周りからは祝福とともに、気遣う声も。無理もない。激務と育児との両立に悩み、やめていった女医の姿を見てきた。
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厚生労働省が〇五年発表した全国調査で、女性小児科医の43・3%が「育児」を仕事の支障として考えていた(複数回答)。同じく34・6%は「妊娠・出産」も支障に挙げた。妊産婦のよき理解者でありながら、子育ての理想と現実の重い負担とのギャップに悩む心中を裏付けた。
結婚三年目の〇二年二月、貴恵さんの両親から声が掛かった。「出産に備えて、二世帯住宅を一緒に建てないか」。大阪出身の夫も二つ返事で、広島市東区にある木造二階建ての実家を鉄筋三階建てに建て直す話が決まった。ほどなく妊娠。二階に安田さん夫婦、三階に両親と妹二人が住む新居が〇三年八月に完成し、二カ月後、朋生ちゃんが生まれた。
産後半年で病院に戻り、子どもは保育園に預けた。すると連日、熱を出したり中耳炎になったり。入園直後の三カ月間でまともに預けられたのは、たった十日。八十日余りは実母の中野都子さん(58)が自宅三階に引き取り、子守をした。
貴恵さんの帰宅は午後六時ごろ。すぐ三階に上がり、両親と同居する妹二人、朋生ちゃんと食卓を囲む。八時ごろに帰る夫も合流し、入浴も済ませて九時すぎ、親子三人で二階に下りる。「甘え過ぎないように気を付けているけど、つい長居してしまって」
妻の両親と同居の安田さん夫婦と違い、夫の両親と暮らす場合は「甘え方」にも加減が要る。
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水戸利行さん(74)、松子さん(68)夫婦は二〇〇〇年十月、広島都心にあった築四十三年の一戸建てを売り払い、西区の団地に移った。鉄筋二階建ての新居には、玄関が二つ。二階には長男の会社員宏之さん(42)、由貴さん(41)夫婦と孫二人が住む。食事も風呂も親子別々の二世帯住宅だ。
電気、水道のメーターも別々。たまに松子さんが二階に上がり、掃除機をかける程度の行き来だ。「親が祖父母に頼る姿をあまり見せると、子どもらの自立心が養えないと思うから」と嫁の由貴さんは言う。
同居を始め、元会社員の由貴さんに働く意欲が戻った。月に十日間ほど、パートに出る。その間、松子さん夫婦が通園バスに乗る孫の送り迎えをはじめ、子守を買って出てくれた。
由貴さんは今、「しつけにとても良かった」と感謝する。「靴はそろえるんよ」「いすは出しっぱなしにしないんよ」「朝起きたらあいさつするんよ」の三つを祖父母は孫に繰り返した。「時には、またかという顔もされたけど、今は身に付いて自然とやっている。教育なんて、そんなもの」と松子さん。
旭化成ホームズ「二世帯住宅研究所」(東京都)の熊野勲所長(56)は言う。核家族に慣れた戦後生まれが祖父母世代に差しかかり、「風呂も台所も共用で入浴の順番や家事の分担で気をもんだかつての二世帯住宅でなく、玄関や水回りを別々にするプライバシー重視の設計が受け入れられやすい時代になった」
同研究所のアンケートでは、二世帯住宅を選んだ理由(複数回答)として「家事・育児などで協力し合える」を挙げる比率が一九九四年の32・5%から〇五年には46・6%に上がった。「出産後も働く女性が増え、三世代同居が、家庭と仕事を両立させ得る現実的な手段として認められつつある」とみている。(藤井智康)
2006.1.6