下.交流
−顔覚え合う努力から−
「ワン、ツー、スリー、はい」。サルサの音楽に合わせて軽快にステップを踏む。あいりちゃん事件が起きた広島市安芸区の中野公民館。ブラジル、ペルー出身者でつくる「ラテンアメリカの会」が開くダンス教室に日本人ら十五人が汗を流していた。
▽サッカーで会話
代表の伊藤エレニルさん(42)は「忘れたくても忘れられない事件。だけど、お互いが理解し合えれば…」。通い始めて八カ月の無職前原孝蔵さん(65)=南区=も「ここは楽しく踊る場所よ。国籍は関係ない」と笑顔を見せた。
同区の特定非営利活動法人(NPO法人)「もみじスポーツクラブ」は昨年五月、隣接する海田町のブラジル、ペルー人の五チームを加えたフットサルリーグを開幕させた。発起人で副理事長の笠井清孝さん(47)は「言葉は通じなくてもサッカーは世界共通。生かさない手はない」。地域の企業などを走り回り、リーグには現在、二十チームが参加する。
広島県国際室も昨年四月、中区のひろしま国際センターにポルトガル語など六カ国語対応の相談窓口を設けた。ボランティアが就労トラブルの解決法などを学ぶセミナーも開催。外国人を支える地域のリーダー育成を視野に入れる。
▽「怖い」感覚変化
沖田真一企画員(41)は「まだまだPR不足だけど、活動のすそ野を広げたい」。出前相談窓口、各市町と国際センターをテレビ電話でつなぐ構想も描く。
だが、外国人との共生の経験をほとんど持たない島国日本では「外国人は怖い」と接触すら拒む声も依然として根強い。
広島国際学院大(安芸区)で「地域国際化論」を教える高畑幸講師(38)は「お互いの顔を覚える小さな交流の積み重ねが不安を消していくんだが…」と感じる。
フィリピン人を中心に外国人が多い名古屋市栄東地区で二〇〇二年、地区の日本人に行ったアンケートでは、外国人の増加に対し「どんな外国人でも困る」と答えた人が約三割にも上った。
だが、栄東地区では住民の粘り強い呼び掛けに外国人が呼応し、清掃や街の落書き消しに積極的に参加するようになった。地域住民が外国人を見る目も確実に変わってきたという。
同大では今、学生が日本語教室のボランティアをしたり、ブラジル人チームとのサッカー親善試合を企画して外国人と積極的な交流を深めている。
「国際化に対応した明確な処方せんはない。住民や行政、学校が取り組む試みは小さなことかもしれないが、お互いの顔を知る努力をすることで分かり合える可能性を少しずつ広げている」。高畑さんは講義で学生にそう語りかける。(久保田剛)
ひろしま国際施策推進プラン2010 「世界に開かれた広島県」を目標に2006年3月に策定。重点施策として、「外国籍の県民があらゆる場面で障壁を感じることなく安全、快適に、安心して活動できる地域づくりを図る」とする。県国際室が行う相談窓口の充実やボランティアセミナーなどには1265万円の予算を組んでいる。
2007.4.15