中.働く
−意欲ある人材に逆風−
「偽造パスポートは金を出せば買える。職を求めて日本に来るために、手に入れる人は決して少なくない」。広島県海田町の三十代の日系ペルー人男性は、来日外国人の「現実」をこう指摘する。
▽文書で犯歴証明
二〇〇五年十一月に広島市安芸区で起きた木下あいりちゃん事件。容疑者のホセ・マヌエル・トレス・ヤギ被告(35)は「ブローカーから偽名パスポートを約四千ドルで買った」と認めた。金を稼ごうと不正に入国した異国の地で悲惨な事件を引き起こした。
事件を教訓に、法務省は昨年四月から来日する日系人とその家族に犯罪歴がないと証明する文書提出を義務付けている。広島入国管理局は「危険な人物を食い止める効果は大きい」とするが、各国の警察機関などが発行する文書の内容や書式はさまざま。偽造を見破るには「入国審査官の知識と経験が頼り」(同管理局)だ。
文書はすでに来日している日系人も原則、ビザ更新のたびに提出が義務づけられる。さらに年内にも十六歳以上の外国人に入国審査時の指紋採取や顔写真撮影が原則義務付けられる。テロ対策が主眼だが、犯罪とは無関係ともいえる観光客も対象だ。
「多くの外国人は正当に入国している。じわりじわりと息苦しさが増してきた」。トレス被告が在籍していた海田町の派遣会社社員の日系ブラジル人男性(63)は、あいりちゃん事件の余波をこう感じる。
▽「製造業下支え」
「こつこつと働いてくれる。彼らがいなければ会社は成り立たない」。海田町の鉄鋼総合商社「高津鋼材」の高津宗恭社長(62)は断言する。
従業員約五十人のうち、九人はブラジル、韓国、インドネシア、ベトナムからの労働者。時給は七百五十〜千三百円と日本人よりかなり安いが、多くがまじめに働き、母国の家族に送金を重ねる。
「日本の製造業を下支えしているのはこんな外国人労働者なんです。経営者として仲間として、当然のことでしょう」。毎週一時間、日本語を学ばせる時間を設け、忘年会や新年会、焼き肉パーティーにも参加させて意思疎通を深める。
バブル期に安価な労働力として大量に受け入れながら、教育や地域に定着するための施策は心もとない。高津社長の目にはそう映る。
関西学院大の井口泰教授(労働経済学)は「外国人労働者の急増による問題はすでに噴出し尽くしている」と言う。入国管理は法務省、各種保険は厚生労働省、地方自治体の指導は総務省…。担う関係省庁が縦割りで足並みがそろわず、対応の鈍さにつながっている。
「意欲あふれる善良な労働者を温かく処遇し、一方で犯罪予備集団をどう締め出すか。バランスの取れた施策を国が講じる必要性がある」と指摘する。(久保田剛)
外国人労働者受け入れ 国は単純労働への就労には慎重な姿勢だが、弁護士や大学教授などの専門職、技術職には積極的だ。朝鮮半島出身者らの「永住者」やブラジル、ペルーの日系人らの「定住者」も自由に就労できる。フィリピンとの間では昨年9月、看護師・介護福祉士を受け入れる経済連携協定(EPA)を締結。アジア諸国からの調理師などの受け入れの検討も進めている。
2007.4.14