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世界の中のヒロシマ

(26)チェルノ被曝者 灯籠流し 千葉智恵子

昨年8月9日の長崎原爆の日、ヨーロッパの北にある、リトアニア中部カウナス市のネムナス川河畔は、バルト3国初の灯籠(とうろう)流しが行われるということで朝から200人もの人でにぎわっていました。

晴れ渡る空の下、170個の色とりどりの手作りの灯籠が並べられ、広島・長崎の原爆被害の写真を展示し、折り鶴も飾りました。少女がバイオリンを奏で、青年が剣道を披露し、子どもも大人も灯籠に平和のメッセージを書き込んでいく。バルト3国初というだけでなく、おそらくはチェルノブイリ被曝者(ひばくしゃ)や関係者自身が主催した初めての灯籠流しでした。

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それぞれ平和のメッセージを書き込んだ色とりどりの灯籠。主催者が川に流す手順を説明しています(昨年8月9日)

ちば・ちえこ

神奈川県川崎市在住。チェルノブイリ原発事故処理で被曝したエストニアの青年との交流をきっかけに、国内の平和運動家や大学教授たちが呼び掛け1990年に発足した「エストニア・チェルノブイリ・ヒバクシャ基金」スタッフ。日本語教師。

リトアニアは、面積が日本の6分の1、人口340万人ほどの、バルト海に面した小さな国です。第一次世界大戦後にロシア帝国から独立したものの第二次世界大戦後に再び旧ソ連邦に併合され、1990年になってようやく隣国ラトビア、エストニア(合わせてバルト3国という)とともに独立した若い国です。

86年のチェルノブイリ原発事故当時はまだソ連領で、バルト3国で約2万人、リトアニアだけでも6000人もの若者が汚染除去作業に従事し、被曝しました。

この灯籠流しを企画したアウグステ・ユラシカイテさんは、リトアニアでチェルノブイリ被曝者団体のボランティアをしています。彼女は2003年から1年間、日本の大学で日本語を学び、リトアニアのチェルノブイリ被曝者が広島を訪問した際には通訳として手伝ってくれました。帰国後の昨年8月6日にはカウナスで千羽鶴イベントを開催し、佐々木禎子さんの命日(10月25日)に「原爆の子の像」に4000羽の折り鶴をささげに再来日するなど、核兵器の恐ろしさと平和を訴える活動にも熱心です。

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夕闇が迫る時刻、灯籠に点火。ゆったりと光の輪が浮かび上がりました。参加者一人一人が灯籠を川へ。やがて一筋の光の帯となって流れていきました。

日本に帰国した私のところにアウグステさんから写真が届きました。笑顔の彼女と一緒に、若葉を広げた1本の苗木が写っていました。昨年彼女が広島で被爆証言活動をしている沼田鈴子さんからもらった被爆アオギリが育ったのです。

広島とカウナス。2つの町は遠く離れていますが、広島の被爆体験はしっかりと根付いています。