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子どもの人身売買
健やかに生きる手助けを


物乞いする子ども。貧困家庭の子どもたちは、人身売買の対象にされる危険性が高い=2003年8月(カンボジア、国境なき子どもたち提供)


子どもたちがお金で取引され、強制的に働かされる―。「人身売買」という想像しがたい現実が、日本を含む世界で起きています。

今回の取材を通し、ジュニアライターと同じ世代の子どもたちが、売春の強要や強制労働の被害に遭っていることが分かりました。自由を奪われ、学校に行くことも許されていないのです。

世界の子どもたちを守る「子どもの権利条約」についても知ることができました。健やかに生きる権利が奪われる子どもの人身売買。止めるには、私たちに何ができるのでしょうか。

実態を知り、自分のこととして考え、行動する―。解決のためのヒントを報告します。


NPO法人国際子ども権利センター 藤井浩子理事


「権利を奪われた子どもたちの現場を知ってほしい」と話す藤井さん(撮影・高2野中蓮)

売春や物乞い強要 農村から都市へ…逃げぬよう麻薬を打たれ

カンボジアで人身売買の被害に遭った子どもたちを支援するNPO法人国際子ども権利センター(東京)理事の藤井浩子さん(63)は「一人でも多くの子どもを救い、新しい人生を歩めるよう支援したい」と話します。

カンボジアの子どもたちは農村部から国内外の都市部へ売られ、売春や物乞いとして働かされます。売春を強いられた少女はエイズなどの感染症にかかったり、逃げられないよう麻薬を打たれたりするそうです。

農村部の貧困や、女性、子どもの地位が低いことが人身売買の原因と言われています。仕事を世話するとだまされたり、親の借金と引き換えに売られたりするケースもあります。日本とも無関係ではありません。日本の成人男性がカンボジアを訪れ、少女を買春している事実もあるのです。

藤井さんは「権利を奪われている子どもたちの現状を知り、考え、行動してほしい」と強調していました。(高2・植木史織、高1・石本真里奈)


NPO法人「国境なき子どもたち」


 自立へ職業訓練を提供
カンボジアで、美容技術の訓練をする人身売買の被害者=左(国境なき子どもたち提供)


NPO法人の国境なき子どもたち(東京)は、カンボジアで人身売買の被害者やストリートチルドレンが自分で生活できるよう、支援しています。「若者の家」という施設を運営し、15歳から19歳の男女約50人を受け入れています。

施設では、シルク製品や家具作り、バイクの修理などの職業訓練をしています。精神的なケアや識字教育などの基礎教育も行っています。

2001年から3年間、現地で活動したスタッフの大竹綾子さん(42)は「深い心の傷を負った子どもたちが施設での勉強や職業訓練を通し、自信をつけている。重要なのは自立のための支援です」と話していました。(中3・石井大智)


明治学院大国際学部 斉藤百合子准教授



給料安く済み従順 被害の一因 貧困改善・教育充実が鍵

明治学院大国際学部の斉藤百合子准教授に人身売買について聞きました。国連薬物犯罪事務所(UNODCのデータでは世界で2万1400人以上が人身売買で保護され、約20%が18歳未満のだそうです。

売春の強要が最も多く、臓器売買、強制労働の被害もあります。例えばタイやバングラデシュの水産物の加工場では、鮮度を保つため冷たい部屋で長時間、作業させられます。トイレの回数が制限され、超えると罰金を取られるそうです。

斉藤先生は子どもが被害に遭う原因を「大人より給料が安く、言うことを聞きやすい。逃げる方法も分からない」と指摘します。

日本での子どもの人身売買の詳しい実態は分かりません。ですが、斉藤先生は、15、6歳のタイ人少女が1990年代、日本で無理やり売春させられたという証言を聞いたことがあるそうです。少女は「おまえには借金があるから返さないといけない」とだまされ、逃亡できない状態になっていました。また、家出した日本人少女がスナックに売られ、売春を強要されていた事例もあります。

人身売買を防ぐには、貧困の削減、人権を大切にするという教育の充実が必要です。(高1・井上奏菜)



 「子どもの権利条約フォーラム」広島で開催



分科会 何が「違反」?物語から探る

人身売買された少女の実話を基に、子どもの生きる権利について考えるジュニアライター

広島市内で13日にあった「子どもの権利条約フォーラム2011in広島」の分科会「アジアの子どもと子どもの権利」に参加しました。NPO法人国際子ども権利センター理事の藤井浩子さんが講師。カンボジアで人身売買などの被害に遭った少女の体験を基にした物語を参考に、子どもたちが幸せに生きるための権利について意見を交わしました。

<物語の要約>

少女マリー(仮名)はカンボジアの山岳部で少数民族の子どもとして生まれた。家族はおらず、10歳のころ彼女の面倒を見ていた男性によって、ある老人に売られた。マリーは老人の生活の面倒を見ていたが、気に入らないとむちで打たれることもあった。14、5歳のころ、12歳年上の兵士と結婚させられた。夫は戦地に行ったまま帰って来ず、老人がマリーを首都プノンペンの売春宿へ売った。

参加者はストーリーを読み、問題点を紙に書きました。その後、どういう点が「子どもの権利条約」に違反するか話し合いました。少女の人身売買については、34条「性的搾取からの保護」や35条「誘拐・売買からの保護」に違反していました。

藤井さんは、センターが現地の非政府組織(NGO)と一緒に地域の村長や教師、子どもたちを対象に、権利について教育していることを紹介。社会全体の意識を変化させようとしているそうです。

子どもの人権について、取材経験を発表するジュニアライター

最後に参加者は「今の生活が恵まれていることが分かった」「一人一人の人権が尊重される世界のため、何ができるか考えたい」など感想を言いました。(高1・坂田弥優、中2・井口雄司)



開幕イベント 取材で知った侵害 報告

12日に原爆資料館(広島市中区)で「子どもの権利条約フォーラム2011in広島」のオープニングイベントが開かれました。私たち「ひろしま国」のジュニアライターを含む5都県の子どもたちが、子どもの権利条約についての学習成果やいじめ問題について発表しました。

私たちは、昨年11月に広島で開かれたノーベル平和賞受賞者世界サミットで人権活動家ら3人に取材したことを報告しました。子どもの死刑執行や子ども兵、児童労働など世界各地で子どもの人権が侵害されている実情を伝えました。アムネスティ・インターナショナル事務総長のサリル・シェティさんの言葉「若者は世界を変える力を持っている」を紹介。積極的に活動するよう訴えました。(中3・木村友美)

なるほどキーワード

  • 子どもの権利条約 児童の権利に関する条約。1989年、国連総会で採択された。18歳未満を子どもと定義し、その権利を守るために必要なことを国際的に定めている。米国とソマリア以外の193の国と地域が条約を結んでいる。日本は94年に結んだ。